第328話


「まあ、暫く掛かるの」

「そうですか」

「お主はどうする?」

「そうですね、領に戻ります」

「そうか」


 アウレアイッラにクロートとアルティザン、鍛治師のドワーフ達を届けた俺とブラート。

 黒曜石を使用した刀の完成は時間が掛かるらしく、俺はリアタフテ領へと戻る事にした。


「じゃあ、俺も戻るぞ」

「ふんっ、儂も戻るに決まってるだろう」


 ブラートもどうやらディシプルに戻るつもりらしく、アルティザンに別れを告げたが、アルティザンも此処に居るつもりは無いらしかった。


「駄目に決まっておるじゃろ?」

「あん?何故だ?」

「お主は此処で儂の仕事を手伝うんだ」

「・・・な⁈」


 クロートからの命令に正気を疑う視線で応えたアルティザン。


(確か以前にアルティザンはドワーフには珍しく鍛治の才が無いタイプと聞いた事が有るが・・・)


「驚く事も有るまい」

「い、いや、何を言ってるんだ?」

「当然だろう?お主此の先も何も打たずに生涯を終える気か?」

「お、おうよ」

「はあ〜・・・、馬鹿者がっ」

「うっ・・・」

「何を生業にしようとお主の勝手だが、我等一族の生まれて来た意味を成す事を止める事は許さん‼︎」

「・・・っ」


 クロートの一喝に巨木の様な胸板をびくりと丸めたアルティザン。

 どうやら、豪快に見えるこの男もクロートには逆らえないらしかった。


「分かったな?」

「う、う〜む・・・」

「諦めるんだな、アルティザン?」

「ブラー・・・貴様っ、他人事だと思って〜・・・」

「仕方無いだろ?それに頭も動きが無いしな」

「・・・ぐっ」


(そういえば、シエンヌとブラート、アルティザンのパーティの旅の目的って何なのだろう・・・?)


 初めての出会いはローズを誘拐した犯罪者として最悪のものだったが、以降は俺の任務を手伝って貰ったり、今はディシプルにずっと居る事の出来ない俺に代わり、アンジュと刃を守って貰っているし、感謝しても仕切れない存在だったが・・・。


「ふっ、どうした?」

「い、いえ・・・」

「ふっ、まあ良いさ」

「・・・」


 ブラートの反応は俺の思考を読んでいるものだった。


(俺って余程考えが顔に出るタイプなんだなぁ・・・)


 此方の世界に来てよく其の事を怒られたが、日本に居る時は何を考えて居るのか分からず、不気味な奴だという評価だったのだが・・・。


「だが、お主も難儀な奴を標的にしとるな」

「え?難儀ですか?」

「うむ・・・、ほれ?」

「え・・・、っ⁈」


 クロートの顎が天を指し、視線を其方に向けると、其の先を悠然と漂うのはグローム。


「分かり・・・、ますか?」

「うむ。少なくともゼムリャーより上なのは確かだな」

「はぁ・・・。もし」

「ん?」

「もし、クロート様にグロームを仕留める武器を依頼したら作って頂けますか?」

「お主、儂を試すつもりか?」

「い、いえ・・・」

「ふんっ」

「・・・すいません」


 発した言葉のわりには、表情や声色に変化を見せず、クロートはどうでも良いという風に応えて来た。


「そうだな・・・」

「・・・」

「当てる事さえ出来れば、仕留める武器を仕上げる事は不可能では有るまい」

「え、本当ですか?」

「当然だ。我等は神を殺す一族だぞ」

「はい、で・・・」


 強気に応えたクロートに、俺が依頼を出そうとすると・・・。


「ただ」

「え?」

「それには相応の素材が必要だし、使用する状況にも細かい条件が必要だがな」

「そうですか・・・」


 俺はクロートが続けた言葉に、出そうとした依頼を飲み込んでしまった。


(結局其の使用条件が分からないと、俺の新魔法とどっちが有効なのか分からないからなぁ)


「とにかく、今は偉大な祖先の打った白夜を超える刀を打つのが先決だからな」

「はい、お願いします」

「うむ、任せておけ」


 こうして、俺とブラートはクロートや刀匠達に此処を任せ帰還したのだった。

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