第329話


 此処はディシプルの真田家隠れ家、俺はフォールと向き合っていた。


「セーリオさんですか?」

「ああ、覚えているかな?」

「・・・」

「狐の獣人の・・・」

「あっ、はい、思い出しました」

「そうか、良かったよ」


 俺の記憶から抜け落ちていた狐の獣人の男セーリオ。

 確かフォールの反乱の際に彼に協力して、賊に操られているエルマーナの救出を狙っていた男だった。


「セーリオさんが何か?」

「ああ、実は真田殿との面会を求めていてな」

「私と・・・、ですか?」

「ああ」

「う〜ん・・・」


 どういう事だろう?

 彼が俺に面会を求める理由が全く思い浮かばないのだが・・・。


「会ってあげれば良いじゃない?」

「アンジュ・・・」

「フォールには日頃お世話になってるんだから・・・、ね?」

「あぁ、それは勿論」

「すまないな」

「いえ、とんでもありません」


 正直、アンジュの言う事は尤もで、俺も個人的には断るつもりは無かったのだが・・・。


「一応、陛下に許可を得ても良いですか?」

「ああ、無論だ」

「では、後日返事をします」


 現在俺の下にはディアも居る為、流石に国王に無断で俺がセーリオと面会するのは問題が有るだろう。


(縁は切れているとはいえ、一応族長の妹だからなぁ・・・)


 こうして・・・。

 俺からの申し出に国王はすぐに許可を出してくれ、セーリオとの面会が実現する運びとなった。


「・・・」

「え〜と・・・?」

「・・・」

「セーリオ。アンタが申し込んだ面会だろ?」

「・・・まあな」

「お久し振りです、セーリオさん」

「・・・ああ」


 セーリオとほぼ無言で見つめ合う事1分位だったろうか?

 珍しくシエンヌが俺に出してくれた助け舟も、あまり効果は得られなかった。


「どうぞ」

「あぁ。ありがとうアンジュ」

「ううん。良かったら食べてみて?」

「・・・」

「はあ〜、セーリオ」

「・・・人族の食事は慣れん」

「ふふ、そう?」


 アンジュが卓に運んで来てくれたのは、紅茶と手作りのクッキーだったが、セーリオは紅茶にしか口は付けなかった。


(以前のアンジュならセーリオの態度に即怒り狂っていただろうが、最近のアンジュは落ち着いた若奥様そのものだからな)


 俺は自身の妻にそんな他人事の様な感想を抱いたのだった。


「・・・」

「・・・」

「・・・」

「え〜と、セーリオさん?」

「・・・」


 再び無言で見つめ合うも、今回は俺がプレッシャーに負け呼び掛けたが、セーリオは無言で応えたのだった。


「セーリオ、いい加減にしな」

「・・・ああ」


 俺の呼び掛けには応え無いが、シエンヌの言葉には反応するセーリオ。

 元々、セーリオはギルドの紹介で出会ったらしいし、シエンヌとの関係が深いものなのだろうか?


「・・・エルマーナ様に」

「はぁ?」

「エルマーナ様にはその後会ったか?」

「いえ、ディシプルの件が最後です」

「そうか・・・」

「あっ、でも・・・」

「・・・っ、何だ⁈」

「は、はぁ・・・」


 流石にエルマーナの話となると、この冷たさを相貌で表現する様な此の男も興奮するらしく、椅子から立ち上がり、卓に身を乗り出し食い付いて来た。

 セーリオはエルマーナの情報を得たかったのだろうか?

 俺はそんな事を思いつつも、飛龍の巣での一件をセーリオに伝えたのだった。


「そうか・・・」

「セーリオさんはその後、何か情報は?」

「・・・」

「・・・」

「はあ〜、セーリオ・・・。アンタねえ?」

「ああ、無いな」

「そうですか・・・」


 本当かどうか分からない調子で応えるセーリオ。

 まぁ、タダで情報を教えた俺が馬鹿なのだろうが・・・。


「それで今回の面会の目的ですけど?」

「・・・ディア様はお元気か?」

「ディアですか?はい、元気ですかね」


(まぁ、そうなんだろうけど・・・)


 セーリオが俺に会いたい理由は他に思い浮かばなかったが、それでもその口から出たのはある意味で最も意外な名だった。


「・・・実は本命はディア様との面会だ」

「・・・」

「頼めるか?」

「私の口から許可を出す事は出来ません」

「では・・・」

「ディアの立場も考え陛下の許可が絶対必要です・・・」


 当然の事だろう。

 単純に国王の許可も再び必要だし・・・、何より。


「ディアが受け入れるか分かりませんしね?」

「・・・」


 俺が最後に付け加えた言葉にも、セーリオは冷たい視線で応えたのだった。

 

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