第324話
「くくく、無理だろうな」
「そうかぁ・・・」
「これ程の威力が有ってもですか?」
「そ、そんな事無いぞっ。我の爆破に比べればこんなもの・・・」
「はあ・・・」
「・・・」
足下に転がる、消し炭になったアークデーモン の死体。
俺の魔法の威力にアナスタシアは賛辞を送ってくれたが、ラプラスは其れに子供の様に自身の方が優れていると横槍を入れて来た。
(ただ、やはり執行人による紅蓮の裁きではリョートを仕留めるのは不可能か)
「アナスタシアが頼むというなら、我が・・・」
「いや、頼んで無いぞ?」
「貴様には聞いとらんっ‼︎」
「そうかい」
「ぐぐぐ・・・」
やはり、アゴーニの攻撃を利用するのが、一番確率が高いのだろうか?
「う〜ん、でもアゴーニの炎は魔法じゃ無いんだよな」
「魔法で無いと問題が有るのですか?」
「あぁ、ちょっとな・・・」
深淵より這い出でし冥闇の霧の様に、魔法に対して魔法で影響を与える事は確実に可能だが、魔法で火炎攻撃を受け流すのは失敗した時のリスクが大き過ぎた。
「其処のところどうなんだ?」
「ん?何だ?」
一応ラプラスへと確認してみると・・・。
「・・・対となる属性なら打ち消す事は可能だろう」
「其れを受け止める、或いは跳ね返す事は?」
「くくく、死にたければやってみるが良い」
「・・・」
「貴様は珍妙な魔法を使うし、不可能とは言えんだろうがな」
「珍妙って・・・」
失礼な物言いだがどうだろう・・・。
(大魔導辞典に新魔法を記して、飛龍か海龍相手に実験する手も有るが・・・)
仲間に協力して貰う実験なら命の危機は無いがなぁ・・・。
聖跡に芽吹く蒼薔薇の息吹の件も有るし、魔法も必ず成功する訳では無い事に、俺は二の足を踏んでいた。
「他に何か手段って無いのか?」
「くく、さあな」
「・・・」
ラプラスは俺の質問をどうでも良さそうに流し、お猪口を空にしていた。
「ラプラス様」
「お、おう?」
「何か手立てが有れば、教えて頂きたいのですが」
「・・・う、うむ」
「お願いします」
「う、う〜ん、そうだな・・・」
「・・・」
アナスタシアからの質問には声を詰まらせ、悩む表情を見せたラプラス。
(此れは、何も手は無さそうだな・・・)
ラプラスに手が有るのなら、即答しているだろうし、あんな困りはしないだろう。
(此処は・・・)
「う〜ん・・・」
「ラプラス」
「む、何だ?」
「また、来るからその時に頼むよ」
「お、おぉ・・・、そうか」
「あぁ、邪魔したな」
「くくく、良い」
「では失礼します、ラプラス様」
「おう、また来るが良い」
ラプラスは俺の助け船を理解したらしく、俺達を見送ってくれたのだった。
「サーカス?」
「ええ、そうよ。年明けにね」
「へぇ〜・・・」
此処はリアタフテ屋敷の執務室。
俺はローズから呼び出しを受けていた。
「珍しいものなのか?」
「勿論。リアタフテ領は娯楽関係の施設は無いから、かなり盛り上がるわよ」
「そう言われてみれば・・・」
リアタフテ領といえば一般的にはスタージュ学院が一番有名で、所謂観光名所の様なものは無かった。
ラプラスのダンジョンが出来て若干冒険者達が旅に来る事は増えたが、最下層で待ち構える彼奴の所為で多くの上級冒険者達が攻略を諦め、それ以下はそもそも此の領を活動場所に選ぶ事は少なかった。
フェーブル辺境伯の一件で、此の領に割り当てられる中央からの資金や人的補助は増えたが、基本は此の領に人を集めて税による収入を増やすのが本筋であった。
「何か娯楽施設建てるのは?」
「その予定は無いわ」
「そうかぁ・・・」
「欲しいの?」
「いや、まぁ・・・、何か有れば此の領も賑わうと思っただけだよ」
「そうね・・・。魔床の探査も続けているから・・・」
「そうか・・・」
ローズは基本真面目な性格の為、娯楽施設で人を呼び込むのにはあまり納得する様子は無かった。
(まぁ、サーカスは可、賭博的なものは否って事だろうな)
「前回は私がまだ子供の頃だったのよ?」
「へぇ〜」
「颯と凪もきっと喜ぶから、司もその日は空けておいてね?」
「あぁ、分かったよ」
今はローズの部屋でアナスタシアが付いて昼寝をしている子供達。
凪は既に同じ歳の子達よりはっきり喋り出し、自身の意思表示も達者になっていたので、朝の魔力消費の頻度は減っていた。
対する颯は・・・。
「ん?」
「はい、入って良いわよ」
執務室の扉のノックされる音が響き、ローズがそれに応えると・・・。
「にゃ〜」
「ん?アンじゃないか。何か有ったのか?」
「ご主人様じゃ無いにゃ」
「私?」
「そうにゃっ、颯様が・・・」
「そう・・・。ありがとう、アン」
「にゃっ」
アンに礼を述べながら、領主の椅子から立ち上がるローズ。
「じゃあ、約束よ司?」
「あぁ」
「急ぐにゃっ」
「はいはい」
足早に部屋を出て行くアンを追って行ったローズ。
「まぁ、男の子の方が成長は遅いっていうからな」
そんな事を1人呟いて、俺は執務室の灯りを消して自室へと戻るのだった。
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