第303話


 俺はフォール到着の報を受けて、城の謁見の間へと来ていた。


「良く来たな、フォールよ」

「はっ」

「早速だが、リヴァル殿の下に向かうか?」

「・・・はっ」


 サンクテュエール王都に到着したフォール。

 その様子はいつも通り、粛々としたものだった。


「此れは、陛下」


 その後、すぐにディシプル王が捕らわれている監獄へと移動すると、其処ではグリモワールがディシプル王の診察を行なっていた。


「うむ、グリモワールよ。リヴァル殿の様子は?」

「・・・良く有りませんな」

「魔術の解析は、可能か?」

「・・・」


 国王からの問いに、グリモワールはフォールの方を一瞬気にして、珍しく答え辛そうにしていた。


「気になさらずに」

「・・・うむ。不可能と言って問題無いと・・・。其れに・・・」

「其れに、何だ?」

「何らかの薬を使用している思われますな」

「ふむ、薬な・・・」

「そうですか」

「手は無いのか?」

「術者に解かせる、或いは仕留めるしか・・・」

「う〜む・・・」


 グリモワールが告げて来たのは、従来通りの方法で、其れには国王も頭を抱えるしか無かった。


「陛下、よろしいでしょうか?」

「ん?司、申してみよ」

「はい。リヴァル様はこのままだと、どの位の間もつのでしょうか?」

「どうだ、グリモワールよ?」

「う〜ん・・・、強靭な肉体と体力を持っているが、もって後一週間といったところかの」

「・・・」


 一週間、其れだとこのまま迷っている期間は無いな・・・。


「術者が居れば食事を摂らす事が可能だが・・・」

「・・・っ。では、私の・・・」

「違うぞ、真田殿」

「フォール将軍・・・」

「陛下は賊に操られている位なら、自刃した方がマシと考える方だ。だから、真田殿が気に病む必要は無い」

「・・・」


 フォールは既に覚悟を決めているのだろう。

 落ち着いた様子で、俺を気遣って来た。


「どうするかな、フォール?お主に任せよう」

「はっ。出来れば陛下の枷を取って頂きたいと」

「・・・っ⁈」

「ほお?して、どうする?」

「はっ。私との決闘の許可を頂きたいと」

「フォール将軍・・・」

「ふむ・・・、なるほどな」


 このまま、辱めを受けたまま衰弱させるより、自身の手で正々堂々決闘で仕留める。

 フォールは其れこそが、ディシプル王の尊厳を守る方法だと思っているのだろう。

 身に纏う空気は、緊張感を増していた。


(どうだろう?此れは魔法を使わない方が良いのだろうか?)


 俺の新魔法は成功するかは分からないし、失敗すれば今よりディシプル王の状態が悪化するかもしれなかった。

 少なくとも、フォールは既に覚悟が決まっている様だし、余計な事をしなければ、正気で無いとはいえ決闘は可能だろう。


(もし失敗すれば衰弱するのを待つか、或いは苦しまない様に留めを刺してやるかだが・・・)


「いつにする?」

「万全の状態で臨みたいので、明日でお願いします」

「そうか・・・」


 フォールの返事は急な様にも聞こえたが、ディシプル王の体力の問題も有るだろうし、フォールはすぐにでも決闘を始めたい、そんな様子だった。


(せっかく今回飛龍の巣で手柄を立てたのに、此処で失敗してしまえば・・・。ただ、フォールには以前の任務の時も、今現在アンジュの事も世話になっている。そして何より子供が生まれればこれ迄以上に世話になるだろう)


 国王が其の判断を下そうと、一歩前へと歩みでた。


「分かった。お・・・」

「陛下っ」

「ん?どうした、司?」

「実は、リヴァル様を正気に戻せるかもしれない魔法が有ります」

「真田殿・・・」

「ほお?其れはどういったものだ」

「私の手持ちの魔法で、催眠を解く魔法が有ります」

「ふむ・・・。グリモワールよ、どうだ?」

「其の様なものは聞いた事が有りませんが、司なら或いは」

「うむ、そうだな。フォールよ?」

「はっ」

「どうする?儂は此の件、お主に任せるつもりだ」

「・・・」


 其の鋭い眼光を放つ双眸を閉じ、瞑想に入ったフォール。


(国王はディシプル王の件は、フォールに丸投げするつもりかぁ・・・)


 確かに、正気に戻れないからといって殺しても、或いはこのまま衰弱するのを待っても、ディシプル国民の反発は受けるだろうし、フォールの判断なら其れを回避出来るだろうが・・・。


「真田殿」

「はい」

「もし、失敗した場合は、どうなるのだろう?」

「・・・正直なところ、分かりません」

「分からない?」

「はい。今迄使用した事が無い事が一つ、もう一つは此処迄催眠が深いと効果が何処迄か不明です」


 ディシプル王の様子を見ると、俺がディシプルで使用された魔法とは種は同じだが、魔法自体は違うものだろう。


(俺の時は薬は使われて無いし、何より自ら意識を断つ事で、完全に操られる事から逃れられたからなぁ)


「分かった。真田殿、頼めるかな?」

「良いのですか?」

「無論だ。私は真田殿の腕を信じている」

「・・・」

「この通り、よろしく頼みます」

「フォール将軍・・・。はい、分かりました」


 俺は膝をつき頭を垂れたフォールに、覚悟を決めて応えたのだった。

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