第302話
「何故急に・・・?」
「う〜ん、急という訳でも無いんだ」
「そうなのですか?」
急で無いというデュックの言葉。
そもそも、何故開戦して、その後休戦したのだろうか?
「開戦の理由かい?」
「はい。どうしてかなと思いまして」
「う〜ん、其れは数代前迄遡るしねえ。其れに互いに国の規模は同じ位で、隣国だったしね」
「はぁ・・・」
そう言われてしまうと、其れが当たり前の様にも感じてしまう。
(此の世界では、経済戦争より実戦の方が一般的なのだろう)
「休戦は何故?」
「我が国には、港が無いからね」
「そうかっ。そうでしたね」
学院の授業で習った記憶が有る。
その為、サンクテュエールはディシプルと同盟を結んでいたのだった。
「其れで、陛下はアッテンテーターと休戦し、其の時の協定でアッテンテーターから一部物資の輸入を行なっているんだ」
「其れはやはりディシプルとの関係を考えてですか?」
「うん。其れが見事に当たって、ディシプルとの戦時中にも我が国は必要な物資の輸入が行えたんだ」
「なるほど」
決してディシプルとの一件の予見出来た訳では無いだろうが、結果として其の予防線が効いたのだから、見事な判断と言って良いだろう。
(当然と言えるだろうが、やはり国王はそれなりの先見の明を持っているんだな)
「ただ、休戦前の戦況は五分五分だったんだけど、交渉が上手く行かなくてね」
「はぁ・・・」
「物資の価格は法外と迄は行かないけど、かなり厳しい設定でね」
「そうなんですかぁ」
「其処にディシプルとの関係の変化だよ」
「そうかぁ・・・。サンクテュエールは港を手に入れたんですよね」
「一応、正式な主従関係では無いけど、ディシプルには我が国から軍が派遣されてるからね」
「なるほど」
安定的な物資の補給が可能になったから、此方から仕掛ける準備を進めるのかぁ・・・。
其れに・・・。
「当然、アッテンテーターも?」
「そうだね。我が国とディシプルの関係を見て、彼の国も戦争再開の準備を初めているだろうね」
「ですよね」
アッテンテーターとて、此方の動きを予見して、準備は進めているだろう。
其の為、もう一つの隣国であるランコントルに根回しを行う訳か・・・。
「時期は?」
「ああ。其れはまだ全然先だよ」
「そうですかぁ」
「まだ、我が国の準備も終わって無いし、アッテンテーターもね」
俺はホッと胸を撫で下ろしたのだった。
(流石にアンジュの出産も迫っているし、子供達もまだ小さい。今すぐの再開は待って欲しいからな)
「今、クズネーツで戦艦の準備を進めているからね」
「あぁ、其の作業だったんですね」
「うん。ゼムリャーの体内から上質な鉱石が採れてるみたいだし、其の加工もドワーフ達により進んでいるからね」
確かに作業員達は、クズネーツの住居の準備を終えても、何かしてる様だったが、戦艦を造っていたのか・・・。
「港が手に入ったら入ったで、海からの侵攻にも備えないといけないんですね」
「ああ。其れに此方からもアッテンテーターに対して、海と地上から挟み撃ちにも出来るしね」
「そうかぁ・・・」
「司君がクズネーツに向かう途中で、海龍から大量の上級魔石を手に入れただろう?」
「はい、其れが何か?」
「うん。実は新造艦は其の魔石を使用した、魔導戦艦になる予定なんだ」
「魔導戦艦・・・、ですか?」
「ああ。魔石の力で動き、兵器を運用する戦艦。其れが魔導戦艦だよ」
「・・・はぁ」
俺がディシプルで見た戦艦は、魔石で動く物では無かったし、デュックの口振りを見ると、魔導戦艦というのは全く新しい兵器なのだろう。
(だけど、話を聞いた感じだと、戦争再開には俺の働きが関係している様だな・・・)
俺は少し胸に引っかかるものを感じるのだった。
「其れに今回飛龍から手に入れた魔石も使えそうだしね」
「そうなんですか?」
「ああ。質的にはほぼ遜色無い物みたいだよ」
「そうですか・・・」
まぁ、以前そんなに魔石の質の差は無いと聞いたしなぁ・・・。
「・・・っ」
「ん?どうしたんだい?」
「い、いえ・・・」
「?」
俺は自身に海龍等の魔石の質話をした、人物の事を思い出し、ある事を思い出した。
(そういえば、フェルトはどうするつもりなんだろう・・・?)
俺に魔石の話をしたのはフェルトだったが、彼女はアッテンテーターの貴族なのだ。
(やはり、国に帰るのかなぁ・・・)
そんな事を考えたが、そうなるとルーナの事はどうするのだろう・・・。
流石に戦艦はすぐに完成しないだろうし、まだ時間は有るだろうが・・・。
(一度、ルーナの事も含めて、ちゃんと話をする必要が有るな・・・)
ただ、フェルトに情報を漏らす訳にはいかないし・・・、其れに・・・。
(フェルトに家の話は禁句だからなぁ・・・)
以前、フェルトに家の話を振った時の、いつもの彼女から想像出来ない態度。
俺は其れを思い出し、言い様のない不安に胸が苦しくなるのを感じるのだった。
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