第299話


「終わっ・・・」

「ふふふ、お見事です」

「‼︎」


 双剣の男との激闘。

 俺は其れを終えた事に安堵したのも一瞬、不快な声にマントの男の事を思い出した。


「・・・く」

「いえいえ、そのまま休んで下さい」

「何をっ‼︎」

「私はそろそろお暇させて頂きます」


 男はそう言って自身の足下に、魔法陣の詠唱を始めた。


「グラ・・・」

「では、何れ何処かで・・・」


 漆黒の剣を詠唱し様とした俺だったが、男は詠唱を完成させ、其の中へと飲み込まれて行ったのだった。


「く・・・、そ」

「構わんさ」

「ブラートさん・・・、ですが」

「此の男は手に入れられたしな」

「あ・・・」


 良く考えるとマントの男は、双剣の男を回収はしなかった。


(術者を倒せないからか・・・?)


 若干、不可解な行動だったが、飛龍達の異変の件といい、最低限の目標は達成出来た。


「あ・・・」


 俺は達成感から満たされて来る安堵の気持ちに、闇の翼の魔力を一瞬急激に緩めてしまった。


「司っ」

「だ、大丈夫です」


 心配して声を掛けて来たブラートに応え、俺は翼に魔力を流し、徐々に緩め地上へと降りて行くのだった。


「大丈夫か?」

「何とか・・・」

「ほら、毒消し薬だ、一応使っておけ」

「ありがとうございます」


 ブラートが差し出してくれた瓶に入っていた、薄緑色のとろみのある液体。

 短剣に毒は無いとは思うのだが、使用した男から聞き出せない以上、万が一に備えた方が良いだろう。


「ぐぐ・・・」

「ふっ、滲みるだろう?」

「えぇ・・・、毒喰らってたんですかね?」

「ふっ、傷に滲みてるんだろう」

「そうかぁ・・・」

「毒を受けていれば、液体が薄紫へと変色するからな」

「そうなんですね・・・、ふぅ〜」


 俺はブラートの言葉に、安堵の溜息を吐いた。


「そう言えば・・・」

「ん?どうした?」

「其の男ですけど・・・?」

「そうだったな」


 此の男が現れた時の反応といい、捕らえた事といい、どうやらブラートは此の男を知っているらしかった。


「俺も面識は無いのだが、以前に仕事で見た事が有るんだ」

「仕事、ですか?」

「ふっ、闇関係のな」

「・・・」


 さらっと告げられた内容に、此の人が未だ其方関係の繋がりを持っている事を思い出し、俺は言葉が続けられなくなった。


「ふっ、まあ良いさ。それで此の男だが・・・」

「え、えぇ・・・」

「現在、行方不明になっている、ディシプルの国王だ」

「・・・え?」


 ブラートから告げられた内容。

 其れは今、俺達の前で気を失っている此の老齢の男が、ブラートが探し求めているディシプル国王との事だった。


「何故、彼奴と居たのかは想像に易いがな?」

「・・・」


(確かに、あの国はルグーン達によって陥れられていたのだし、ディシプル国王の状態を考えると先程のマントの男もルグーン達の仲間と見て問題無いのだろう)


「どうする?」

「え?」

「此の男だ」

「・・・任務の過程で捕らえたのです。サンクテュエールの陛下へと引き渡します」

「そうか」


 国王もフォールとの関係を壊したくは無いだろうし、たとえ正気に戻れないとしても、此の男の扱いには細心の注意を払うだろう。


「でも、ブラートさん」

「どうした?」

「何故、此処に?」


 結果としてブラートの到着で助けられたのだが、俺はブラートの意外な行動にそんな事を聞いた。


「・・・さて、何故だろうな?」

「・・・」

「ふっ・・・」


 俺の問い掛けに疑問調で返したブラート。

 俺が静かに視線を向けていると、いつもの様にニヒルな笑みを浮かべたのだった。


(此の人は・・・)


「とりあえず、男は渡そう」

「は、はい」


 差し出して来たディシプル王を受け取ると、ブラートは俺に背を向け歩き出した。


「ブラートさん・・・」

「ん?」

「ありがとうございました」

「・・・ふっ」


 短く宙へと笑い声を吐き出し、そのままブラートは去って行ったのだった。


「そうであったか・・・」

「はい」


 俺はランコントルに戻り、国王へと捜査の結果伝えたのだった。


「儂に面識は無いが、あの方がな」

「はい、ディシプル王です」

「それで、どうするかな?リアタフテ殿?」

「はい。現在ディシプルは我がサンクテュエールの監督下に有ります。ディシプル王の処遇は我が王に指示を仰ぎたいと思います」

「そうか・・・。うむ、そうだな。それが良かろう」

「ははあ〜。ありがとうございます」


 一応ディシプル王は此のランコントルで捕らえた為、俺はランコントル王に、サンクテュエール王への引き渡しの許可を取り付けたのだった。


「今回は本当にご苦労だった。ランコントルの王として、リアタフテ殿の働きに心より感謝する」

「ははあ〜」


 こうして俺はランコントルでの任務を見事に遂行したのだった。

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