第276話


「見てみろっ」

「え?クロート様?」


 クロートが指先で指し示した周囲、其処には無数の土龍達が現れていた。


「彼奴ら・・・」

「ゼムリャーが顔を出すと、いつも多くの土龍達が現れるのだ」

「・・・っ」

「ただ、今回は数が多いな」


 ラプラスに聞いた話だとゼムリャーが鉱石を喰らい、エネルギーを得る事の副産物として土龍が生み出されるとの事だった。


(土龍の数が多いって事は、ゼムリャーは其れだけエネルギーを蓄えているって事か・・・?)


「グググ・・・」

「ただ、黒曜石には興味津々らしいな・・・」


 今回の策はゼムリャーが飢えてくれていた方が好都合な為、一瞬不安が頭を過ぎったが、ゼムリャーは少し眠たそうな瞳で、黒曜石を捉え続けた。

 そうしている間にも、土龍の群れは木々や岩などを蹴散らしながら、辺りを蹂躙していった。


「くっ・・・」


 いくら住民達が避難し終えているとはいえ、これ以上、奴らの好き勝手にさせるのは・・・。

 そう思い翼に魔力を込め、土龍達へ向かおうとすると・・・。


「司っ、待て」

「ブラートさんっ」

「お前の役目は、ゼムリャーを仕留める事だろう?土龍は此方に任せろ」

「ですが・・・」

「ふっ・・・。まあ、見てろ」


 土龍達へ向かおうとした俺を制止して来たブラート。

 ブラートの言葉通り見てみると、既にパーティメンバー達が土龍へと向かっていた。


「行きます‼︎」

「・・・アナスタシア」


 アナスタシアは愛用の大剣を肩に背負い、其れに水属性の魔石を装着すると・・・。


「はあぁぁぁ‼︎」


 いつ見ても其の細い身体の何処に、そんな力が有るのか不思議に思う程、力強い斬撃を放ち、大剣からは水の衝撃波が土龍へと襲い掛かった。


「ガアァァァーーー‼︎」


 水の衝撃波の前に、為す術なく其の巨体を上下真っ二つに裂かれた土龍は、絶叫を上げながら絶命していった。


「良しっ」

「何が、良しなものか」

「むっ」


 納得した様に頷くアナスタシアへと、冷たく言い放つブラート。


「何の不満が有るのです」

「必要以上の魔力を使うな。後何匹土龍が居ると思っているんだ?」

「・・・くっ」

「・・・」


 ブラートの言葉通り、土龍は島の至る所に、数えるのが嫌になる程居たのだった。


「それなら今度は私が行きますわ」

「グゴゴゴ‼︎」

「ガオォォォ‼︎」

「ロックシールド」


 突撃して来る土龍2匹を、岩の盾で受け止めたミニョン。


「お嬢様、そのままで」

「分かってますわっ‼︎」

「はぁっ‼︎」


 フレーシュはミニョンが止めた土龍達へと、水の魔法を放った。


「ギヤァァァン‼︎」


 フレーシュの放った魔法は、効いてはいる様だったが、土龍達は其処迄弱っている感じは無かった。


「ふふ・・・」

「・・・っ、ディア」


 土龍達のフレーシュが魔法を当てた部分。

 其処にディアが血縫いの槍で、刺突を放つ。


「・・・ッッッ‼︎」

「ッッッ⁈」

「ふふ・・・、無様っ」


 土龍・・・。

 見た目的には岩の塊にしか見えないのだが、奴らも生物なのだろう。

 血縫いの槍は効果が有ったらしく、土龍達は固まってしまった。


「狙います。離れて下さい」

「ふふ・・・」


 ルーナからの声に、横目でルーナを見たディアは、其の手に銃が握られているのを見て、土龍達から距離を取った。


「好きにせよ」

「・・・ええ」


 ディアは土龍達から十分な距離を取ると、ルーナに向かい不遜な態度で声を掛けた。

 ルーナはディアの態度にも特段気にした様子を見せず、土龍達へと炸裂弾を発射する。

 ルーナから放たれた炸裂弾は、土龍達へと迫ると、無数に裂け土龍達へと襲い掛かり、其の堅牢な巨体を引き裂いた。


「グオォォォン‼︎」

「グググーーー‼︎」


 絶叫を上げながら倒れていく土龍達。

 一応、今のところは此方側優勢の様だった。


「行け、司」

「ブラートさん」

「何を偉そうにっ、貴方はさっきから何もしてないでしょうっ」

「ふっ・・・、っ‼︎」


 アナスタシアからの指摘に、ブラートは自分達へと突撃しようとしている土龍の足下に、雷の魔法を放った。


「・・・何を⁈」

「見れば分かる」


 アナスタシアの疑問の声の答えはすぐに出た。


「・・・ッ‼︎」


 突撃を開始した土龍は、ブラートの魔法によって抉られた地面に嵌り、一瞬動きが止まってしまった。


「次は・・・」


 其の隙を逃さずブラートは自身の手にした弓に矢を番える。


「・・・」

「おぉ・・・」


 俺は番られた矢を見て感嘆の声を漏らしてしまった。

 其の矢に魔法陣が詠唱されると、水が付与されたのだった。

 放たれた矢は一直線で飛び、土龍の頭部へと突き刺さった。


「ふんっ、倒せて無いですね」

「・・・」


 アナスタシアの言葉にも、ブラートは反応せず、矢を放つと同時に土龍へと構え、詠唱を始めていた魔法陣を完成させた。


「行けっ‼︎」

「ゴオォォォンンン‼︎」


 其処から放たれた水の鞭が、先程の矢で亀裂の入っていた部分を撃ち、土龍は哀しき悲鳴を上げながら、崩れていった。


「・・・ふっ」

「くっ‼︎」


 ブラートは得意げな様子も無く、平然といつものニヒルな笑みを浮かべ、其の様子にいつもはクールなアナスタシアは、悔しそうな表情を浮かべていた。


「・・・分かったろ、司?」

「ブラートさん・・・」

「此処は任せて、お前はお前の役目を果たしに行け」

「・・・はいっ‼︎」


 ブラート達に背を向け、ゼムリャーへと飛んで行った俺。

 ゼムリャーは既に、黒曜石を目掛けて進行を始めていたのだった。

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