第269話
「どうだ?」
「・・・うるさいっ、しっ‼︎」
「・・・」
翌早朝、俺達はアンジュを船に残し、丘陵へと来ていた。
(山と言うには低いが、此処を掘り進めているという事か?)
「ドワーフは寒さに弱い種族と聞きますが」
「アナスタシア。そうなのか?」
「ええ。その為、男は毛深く、特に冬になると獣の様に全身が毛で覆われるらしいです」
「へぇ〜」
それなら、女はどうなのだろうと思うと、女はそもそも外での活動をしないので、身体を温める毛は必要無いらしい。
「なら、この中に居るのは・・・」
「可能性は高いかと」
「そうかぁ・・・」
(それならば・・・)
「いみないっ」
「え⁈」
「・・・そんなの、いみないっ」
「意味ないって・・・」
俺が瞳に魔力を送ろうとした瞬間、ディアからは其れを遮る様な言葉が飛んで来た。
「あなもぐらたちは、まほうなんてまともにつかえない」
「穴モグラって・・・」
「まりょくのながれがないのに、そんなことしてもいみない」
「・・・」
アナスタシアに視線を送ってみると、ドワーフが魔法を得意としないのは本当の事らしかった。
「あっこ・・・」
「彼処がどうかしたのか?」
「かべ、すかすか」
「・・・っ⁈」
ディアの指差した先、其処は特段他の部分と違いは無く、俺にはただの丘の側面に見えた。
「壁が薄いって事で良いのか?」
「うん、あたしのおててくらい」
「・・・」
「司様、私が・・・」
「いや、俺がやろう。皆んな、退がってくれ」
俺からの指示に、壁から仲間達は壁から離れた。
「迅疾たる蒼半月」
「・・・っ、な」
「おぉ・・・」
俺が壁に向かって蒼き水の刃を放つと、岩の壁は信じられない程、簡単に裂けて崩れた。
「洞窟か?」
「その様ですね」
壁の崩れ落ちた先は、暗闇で確認する事が出来なかった。
「暗いですわね?」
「私が灯りを」
「ルーナ、助かる」
ルーナがアイテムポーチからライトを出し灯りを灯すと、壁の奥は細い道が続いていた。
「ディア、先は確認出来るか?」
「う〜、つかれたっ」
「ふぅ〜。ルーナ、スコープを頼む」
「了解です」
ルーナがアイテムポーチからライフルを取り出し、スコープを覗き込んだ。
「前方には特段異常は無さそうですけど」
「罠迄は・・・」
「すいません、其処迄は確認出来ません」
「だな・・・」
何でも出来る便利スコープじゃ無いんだし、其処迄求めるのは酷だろう。
「良し、進むしか無いな」
「そうですわねっ」
「先頭は俺とルーナ、最後尾はアナスタシアに任せる。残りは真ん中に、皆んな集中してくれ」
「了解です」
「分かりました」
こうして、洞窟へと踏み込んだ俺達一行。
俺は一応自身の瞳と耳に魔力を注ぐのだった。
通路は進んで行くと徐々に広がっていった。
「意外と広いですね?」
「あぁ、この後狭まる可能性も有るだろうが」
「・・・」
「・・・」
「なに、ちゅかさ?きもちわるいっ」
俺は話の流れで伝えたい事が伝わると思いディアはと視線を送ったが、素気無い言葉を投げ返された。
「いやぁ、この先どうなってるかと思ってな」
「すすめばわかるでしょ。むだなまりょくをつかわせないでっ」
「・・・そうか。でも、魔力回復薬は有るぞ?」
「はぁ〜・・・」
「・・・」
「ちゅかさはほんとあたまわるいっ」
「何がだ?」
「くすりにだってよくないことはある」
「ん?危険な物なのか?」
「あたりまえ。ふつうならじかんのかかるのを、すぐにするからみゃくはいためる」
「え⁈」
「はぁ〜・・・」
本気で仕方ない者を見る目で俺を見て来るディア。
俺は視線でアナスタシアに問い掛けてみたが、その表情は真偽不明といったものだった。
「俺、結構使ってるんだが・・・」
「べつにいいんじゃない」
「本当か?」
「ちゅかさはにぶそうだから」
「・・・」
心底どうでも良さそうにするディアに、俺は言葉を続けられなくなった。
「・・・っ⁈皆んな、構えろっ‼︎」
「な、つか・・・」
「早く‼︎」
「・・・っ」
魔力を注ぎ続けていた左耳に飛び込んで来た、何かが風を切る様な音。
視線を向けると其処には壁があり、音の出所が分からず、俺が防御の構えを取りつつ固まった・・・、刹那。
突如として向こう側から壁が破壊され、石塊が俺達へと襲い掛かって来た。
「叛逆者の証たる常闇の装束、衣ゥ‼︎」
「きゃぁー‼︎」
「・・・っ‼︎」
最速で闇の衣を展開し、仲間達を覆った俺だったが、石塊の勢いは激しく、闇の衣は勢いを殺すのがやっとで、俺達は何者かによる石塊の攻撃に晒されてしまった。
「ぐうぅぅぅ‼︎」
「な・・・」
「司様‼︎前です‼︎」
「な・・・、深淵より這い出でし冥闇の霧ァーーー‼︎」
石塊に倒れたルーナからの声に反応し、視線を前方に向けた俺は、瞳に飛び込んで来た何らかの光に反射的に魔法を詠唱していた。
(雷属性の魔法・・・。くそっ、敵は複数か‼︎)
俺は闇の中、深淵の底へと雷が飲み込まれて行くのを確認し、横目で左側面の敵を探した。
ルーナが倒れている為、周囲は薄暗く、俺は敵を視界に捉える事が出来なかったのだが・・・。
(・・・っ‼︎ディア‼︎)
俺の瞳の中、微かに揺れたのは白銀の尾。
俺は声を漏らしそうになったが、ディアの月光の輝きの瞳が其れを留めた。
(其方はお前がやるのか・・・‼︎)
ディアからのアイコンタクトに、俺は側面の敵を彼女に任せ、前方の敵を警戒した。
(任せる、ただ魔法は・・・)
(分かっておる。妾なら問題無いのじゃ)
「うおぉぉぉ‼︎」
「ふふふ、単細胞なっ」
「・・・っ⁈」
耳に飛び込んで来る敵のものと思われる、低く野太い咆哮にも、ディアは余裕のある声色で応えていた。
(血縫いの槍も有るし、大丈夫だっ‼︎)
最近は実戦から離れているが、ディアは俺、フォール、ブラートを同時に手玉に取った事も有る程の腕前だし、どんな敵が相手でも、そうそう遅れをとる事は無いだろう。
「・・・っ‼︎深淵より這い出でし冥闇の霧」
俺が警戒しつつ構えていると、再び前方から魔法が襲い掛かって来て、其れを再び魔法で飲み込んだ。
「くくく、捕らえたぞ」
「・・・っ⁈」
「ディア‼︎」
「ふふふ、妾に不可能は無いのじゃ」
ディアは見事に、血縫いの槍で敵を行動不能に陥れたらしく、得意げに槍の刃先で敵を弄んでいた。
「良しっ。おいっ‼︎」
「・・・」
「お前の仲間は捕らえた。大人しく投降しろっ‼︎」
「・・・」
俺からの呼び掛けに応じて来ない前方の敵。
だが、俺は構わずに呼び掛けを続けた。
「さもなくば・・・」
「待てっ・・・」
「・・・っ⁈」
「分かった、投降しよう」
敵は危機的状況にも関わらず、意外な程落ち着いた声で、俺へと応えて来た。
「良しっ、灯りを点ける。武器を捨てて両手を上げろ」
俺は体勢を立て直したルーナへと視線を送り、灯りの再び灯す様に促した。
「了解です」
ルーナは銃を前方の敵へと構えつつ、灯りを灯した。
明るくなった空間に徐々に瞳が慣れていき、前方の敵の姿が明らかになって行く。
「・・・え?」
「ふっ」
「ブラートさん?」
「久しいな、司」
「じゃあ、さっきの魔法は?」
「ああ、俺だ。其れと、出来れば其奴も解放してやって欲しい」
「え?あ、あぁ・・・」
「・・・っ⁈」
明らかになった前方の相手はなんとブラートで、ディアの捕らえた側面の相手は、ブラートの仲間のアルティザンなのだった。
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