第270話


「ブラートさん」

「久し振りだな、司」

「何故・・・?」

「すまんな、侵入者がかなりの手練れな事は分かったが、司とは分からなかった」

「そうですか・・・」


 俺からの疑問の声に、ブラートは特段の言い訳はせず、短く謝罪をして来た。


(侵入者と言われてしまえば仕方ないか・・・)


「司様、そんな者の言う事を鵜呑みにするべきでは無いかと」

「アナスタシア・・・」

「ふっ、信用が無いな」

「当然でしょっ」

「・・・まあ、そうだな」

「くっ‼︎」

「まぁ、アナスタシア。落ち着いてくれ」

「・・・っ」

「ブラートさんもすいません」

「構わんさ。相手の実力しか確認出来なかった以上、かなり危険な手を使ったのも事実だ」

「・・・はい」


 確かに俺の魔法が遅れていたら、仲間の誰かが命を落としていた可能性も有るが・・・。


(そうはいっても、俺は此れから彼等の協力を得ようとしているからなぁ・・・)


 俺は自身の胸の中に湧きそうになった不満を、そっと押し留めたのだった。


「それで、どうして此処に?」

「えぇ、実は・・・」


 俺は今回の来訪の目的をブラートに伝えたのだった。


「そうだったか、ゼムリャーな」

「えぇ」

「アルティザン」

「ふんっ」


 アルティザンは血縫いの槍の拘束が解けた様で、俺の太腿程はありそうな首を鳴らしていた。


「頼めるか?」

「嫌だと言えば?」

「俺の頭で良ければ幾らでも下げるさ」

「・・・っ⁈貴様、どうして其処迄、此のボウズを?」

「ふっ、さてな」

「・・・」


 仲間とは思えない程の、張り詰めた緊張感を漂わせるブラートとアルティザン。

 アルティザンはブラートの言葉に心底驚いている様だ。


「アルティザンさん、お願いします」

「ふんっ」

「・・・」

「ゼムリャーは我々に恵みを与えてくれる存在だ」

「え?」

「ふんっ、やはりそんな事も知らんのか」

「はい。恵みとは一体?」

「此処に来て土龍は見たか?」

「はい」

「狩っては?」

「はい、昨日狩りました」

「ふんっ、生意気な」

「・・・」


 アルティザンは冷たい言葉を放ちながらも、何処か嬉しそうな様にも見えた。


「鉱石は採ったか?」

「はい」

「出してみろ」

「は、はい。此れですけど・・・」

「・・・ふむ」

「・・・」


 俺がアイテムポーチから取り出した鉱石を、鑑定する様に眺めるアルティザン。


「此れが何か分かるか?」

「何か、とは?」

「素材の種の事だ」

「はぁ・・・。鋼鉄の様に見えますが、でも、いや・・・」

「・・・」

「う〜ん・・・」

「・・・そうだ、鋼鉄だ」


 俺が答えに困っていると、アルティザンは自分でして来た問い掛けの答えを、自身で示して来た。


「え⁈でも・・・」

「そうだ。普通の鋼鉄は此れ程の輝きを放つ事など無い」

「では、此れは?」

「ゼムリャーが一度、体内に取り込んだ物だ」

「ゼムリャーが?でも、体内にって?」

「ふんっ・・・」


 其処からアルティザンが説明した内容を簡潔に纏めると、ゼムリャーがエネルギーを得る為に体内に取り込んだ鉱石は、どういう仕掛けか分からないが、其の純度を増し排出されるそうだ。


(エネルギーを吸い取るなら、鉱石の質が落ちそうなものなのになぁ・・・)


 ただ、そういうものだと説明を受ければ、其れで納得するしかあるまい。

 因みに、排出は鉱石が其のままの場合と土龍としての場合が有るとの事だった。


「それでは、ゼムリャーを狩る事は?」

「ふんっ。それはお主が王に掛け合ってみろ」

「え、王ですか?」

「ふっ」

「・・・ふんっ」

「え?え〜と?」


 勝手に何か分かった様に笑ったブラートに、アルティザンは面白く無さそうに鼻を鳴らし応えた。


「王に取り次いでくれるそうだぞ?」

「え?・・・あっ」

「ふんっ、付いて来い」

「ありがとうございます、アルティザンさんっ」

「・・・ふんっ」

「ふっ」

「さっさとしろっ、置いて行くぞ?」

「はいっ」


 俺達はアルティザンに取り残され無い様に、駆けて付いて行ったのだった。

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