第267話


「ゴオォォォン‼︎」

「つか・・・」

「動くなぁ‼︎」

「・・・っ⁈」


 アンジュはへたり込んでしまい、其のサファイアの双眸には大粒の涙が溜まっていた。


「う・・・、っ‼︎」

「良しっ、そのままだっ‼︎」


 然し、俺からの檄に健気に頷き、アンジュは双眸を結び、其の華奢な身体を固めた。


「くっ・・・、『迅疾たる蒼半月ラピドゥスクレスケンス』」

「・・・っ⁈」

「ゴオォォォ・・・、ッ‼︎」


 俺の突き出した腕の先に詠唱された3門の魔法陣。

 其処から発された蒼き水の刃は、視認する事の困難な程の神足で地を駆け、突如として現れた岩の龍を、千々に裂いた。


「ふぅ〜・・・、アンジュ」

「え・・・?」

「終わったぞ」

「・・・あ、あ」

「もう、大丈夫だ」

「う・・・」

「ん?」

「うわあぁぁぁん‼︎」


 安心したのか、俺のふらつく足取りで俺へと駆けて来たアンジュ。


「・・・っ⁈お、おい・・・」

「司‼︎司‼︎司‼︎」

「・・・あぁ」


 アンジュは、そのままの勢いで俺の胸へと飛び込み、必死でしがみついて来た。


「うぅぅぅ・・・」

「・・・」

「司ぁ?」

「あぁ、大丈夫だから」

「・・・うん」

「・・・」


(それにしても、此奴は土龍と見て良いだろうな?)


 突如として俺達の前に現れた岩の龍。

 その形状はどう見ても、土龍の名に相応しいものだった。


「ん?」

「え⁈どうしたの、司ぁ?」


 土龍の死骸を観察していると、魔法で裂かれた斬り口から覗く輝きが目に付いた。


「いや、何か・・・」

「ちょ、司?」

「大丈夫だよ」


 心配そうに怯えるアンジュの背を撫で、俺は輝きの正体を確認しようと、土龍へと近付いた。


「・・・此れは⁈」

「え?」

「鋼鉄?の様に見えるが・・・、然し・・・」

「こんなに輝く鋼鉄は無いでしょ?」

「あぁ・・・」


 輝きの正体は一見すると鋼鉄の様だったが、その美しさは武具屋で見かける鋼鉄製の其れとは、明らかに異質なものだった。


「どうするの?」

「剥ぎ取ろう」

「・・・そうね」


 此れは重要な情報になる可能性も有ったし、何より此れ程の素材なら、俺の新しい武器の為に使えるかもしれない。

 俺はそう思い、闇の剣で土龍の岩の部分を剥がしていった。


「ふぅ〜・・・」

「さっきの魔法使った方が、良かったんじゃない?」

「ん?あぁ、あれは細かい制御が難しいんだ」

「そうなの?」


 迅疾たる蒼半月はまだ、殆ど真っ直ぐ放つ事しか出来ないのだった。


(ただ、魔法の準備はしといて良かったなぁ・・・)


 俺は闇の剣での作業の労力に、実戦では此の魔法には出番の無い事を確信した。


「どうする?」

「あぁ、一度合流して、此処に移動しよう」

「そう・・・、ね?」


 合流場所へと移動を開始する俺とアンジュ。


「ねえ、司?」

「ん?」

「此処にドワーフの国があるのかしら?」

「どうだろうな?」


 確かにラプラスがゼムリャーの副産物と言っていた、土龍と見られるものが此の島には居た。

 ただ、ゼムリャーは比喩では無く山程の大きさだとも、ラプラスは言っていた。


(其れ位の大きさがあれば、此の距離なら海を移動し、島々を渡る事も可能だろう・・・)


 もしかしたら此の土龍は、ゼムリャーが以前に此の島に落としていった可能性もあるのだ。


「司様ー‼︎」

「ルーナ、どうだった?」

「いえ、何も発見は・・・。でも、先程何か獣の鳴き声の様なものが・・・」

「あぁ、それか」

「司さん、何かあったんですの?」

「あぁ、皆んなが合流してから移動しよう」

「え、ええ・・・?」


 どうやら、土龍の咆哮はルーナとミニョンにも届いていた様だった。

 その後、アナスタシアとフレーシュ、ディアも合流し、俺達は再び土龍の死骸の有る場所へと移動するのだった。

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