第266話


「おぉ、見えて来たなぁ」

「頭、どうしやすか?」


 ディシプルから出港して3週間。

 当初の予定より、少し日数が掛かってしまったが、俺達はドワーフの国のあるという諸島を眼前に捉えていた。


「う〜ん、とりあえず、空から探ってみるかな?」

「望遠鏡を使いやすか?」

「いや、ルーナッ」

「はい、司様」

「一緒に来てくれ」

「了解です」

「え、司さん、同行なら私が・・・」

「いや、ルーナに頼んだのはスコープを使う為だからな」

「ええ、任せて下さい」

「むう〜・・・、ですわ」


 不満気なミニョンだったが、こればかりは仕方がない。

 ナウタの用意してくれた望遠鏡の性能は分からないが、多分ルーナのスコープの方が上だろう。


「行ってくる」

「お気を付け下さい、司様」

「あぁ」

「司様」

「あぁ、掴まれルーナ」

「はいっ」

「ぐっ」

「・・・ちゃんと仕事しろよ、アンジュ」

「・・・っ」


 こうして、俺はルーナを抱き、諸島の上空へと向かった。


「どうだ、ルーナ?」

「・・・そうですね、何も動きは無い様ですね」

「う〜ん・・・」

「それより、司様大丈夫ですか?」

「ん?」

「その、私・・・、最近・・・」

「どうした?何かあったか?」

「その、最近、太った気がして・・・」

「・・・」

「やっぱり、重いですか?」

「いや、全然」

「本当ですか?気を使ってないですか?」

「あ、あぁ・・・」

「なら、良いのですけど」


(何をもじもじしてるかと思ったらそんな事とは・・・)


 ルーナの場合食事で太る事は無いが、機能の微調整などで重量が変わる事はあるらしい。


「どうするかなぁ」

「何か手が有れば良いのですけど」

「島の大きさにも特徴は無いし、上空から見た感じ地形も似た感じだしな」


 島の数は13、周囲は10キロ程度か・・・。


(虱潰しに探索するのは悪手では無いが・・・)


 食料等の問題は無かった為、俺達は一度船に戻る事にした。


「お帰りなさいませ、司様」

「あぁ、アナスタシア」

「成果は?」

「悪いな、何も無い」

「そうですか、では?」

「あぁ、明日から探索を開始しよう」

「分かりました」


 パーティ一同に探索を告げた俺。

 開始は明日の早朝からの予定にした。


「ふっふっふっ、手伝ってあげるわ、司」

「あぁ」

「え⁈良いの⁈」

「ん?手伝ってくれるんだろ?」

「え、ええ」

「・・・」


 俺がアッサリと同行を許可した事に、不敵な笑みを消し、驚いたアンジュ。

 正直、上空から観察した感じ、島の足場は良くない様子だし、怪我をした時に役には立つだろう。


「ふっふっふっ、やっと司も私の重要性が理解出来た様ね」

「・・・あぁ、それで良いから、明日は早いし寝坊するなよ」

「ふっふっふっ、私に寝坊の二文字は無いわっ」

「・・・そうか」


 もう、何とでも言ってくれといった感じで、俺はアンジュの得意げな発言を流した。


(そもそも、アンジュを此処に残すと、アナスタシアも居なくなるから、仕事をサボるのは目に見えているしな・・・)


「ふっふっふっ」

「・・・」


 そんな、俺の内心にも気付かず不敵に微笑むアンジュなのであった。


 翌朝、最初の島へと上陸し、探索を開始した俺達。

 その後、半数の7島を探索し終えてもドワーフの国は見つからなかった。


「もう、ヤダッ‼︎」

「おいおい、そろそろ重要性を見せてくれよ?」

「むっ‼︎こんな地味な作業じゃ、私の力の見せ場が無いのよ」

「そうかぁ・・・」

「ぐっ‼︎」

「まぁ、少し休むか・・・」

「はぁ〜、もう帰ろ、司」

「・・・」

「う〜・・・」


 岩場に腰を下ろした俺とアンジュ。

 探索は俺、ルーナ、アナスタシアを基本にディア、ミニョン、フレーシュ、アンジュを割り当て連日続いており、俺の今日のペアはアンジュだった。


「ホント、お尻も痛いし」

「文句ばかり言ってても、仕方ないだろ?」

「司は嫌にならないの?」

「俺か?いや、別に?」

「・・・」

「何だ?」

「・・・何でも無いっ」

「・・・」


 呆れた表情で俺を見て来たアンジュ。

 然し、日本に居た時は工場で総務の仕事をしていた為、この手の地味で面倒な作業はお手の物だった。


「はあ〜、お腹減った」

「もう少しで昼の合流だから我慢しろ」

「分かったわよ」


 もうそろそろ定時の合流時間で、俺達はその時に互いの成果の報告と昼食を済ませていた。

 報告とは言っても、探索して来た島は本当に良く似ていて、3島目からはほぼ昼食の為の時間になっていたのだが・・・。


「痛っ」

「ん?どうした?」

「何か此の岩硬いのよ」

「場所を変えるか?」

「そうね・・・、もうっ」

「おい、足を怪我するぞ?」


 アンジュは移動する為に立ち上がった勢いで、自身の座っていた岩場を蹴っていた。


「大丈夫よ、私がそ・・・っ⁈」

「アンジュ‼︎」

「何っ⁈そんな強く蹴って無いわよ⁈」

「来いっ‼︎様子が変だ‼︎」

「・・・っ⁈」


 アンジュの蹴った岩場。

 彼女の細い足では崩れる事など無いだろうに、其の岩が突如として激しく振動し始めていた。


「ゴオォォォン‼︎」

「な・・・⁈」


 激しく振動した岩場は其の形状を変化させて行き、遂には5メートル以上はあろうか、龍の形状へと変化したのだった。


「アンジュッ、早く‼︎」

「司、あ、足が・・・」

「ちっ‼︎」


 アンジュを呼び寄せた俺。

 然し、彼女は膝から崩れ落ち、動けなくなっていたのだった。

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