第251話
男を追った先。
地上に広がるのは一面の砂浜だった。
「・・・っ」
「そろそろ、アルメも戻るだろう」
「・・・」
「それ迄大人しくしておけば、これ以上の手出しはしない」
男は砂浜の上、肩で息をしながら四つん這いになり、その表情はうかがえなかった。
「・・・」
「さっきの魔法って・・・」
「ん?」
「闇属性の魔法みたいだけど、君の創った魔法?」
「さてな?」
「・・・ふふ」
男からの問い掛けは、俺にとって答える必要の無いもので、短い言葉で流そうとした。
「捕まると罪人だからね、出来ればその前に聞きたいのだけど」
「お前はもう捕まって居るんだ。妙な考えは起こすな」
「・・・」
「・・・」
既に肩の揺れは治ったにもかかわらず、男は砂粒を数えるが如く、地面を見つめ、表情は未だうかがえず、俺は剣を持つ手の力を解かなかった。
(妙な動きは無い様だが・・・?)
俺は魔力を込めた瞳で男を観察したが、特段の変化はみられなかった。
(諦めたか?いや・・・)
此方に来てから初めて見る、俺以外の飛行魔法。
これだけの魔法を使用出来る人間だ、状況の打開方法を隠し持っていてもおかしくないだろう。
「そういえば」
「何かな?」
「これを返しておこうか」
俺はそう言って、男から投げつけられた石を返そうとアイテムポーチから取り出した。
「良いよ、君が持ってて」
「え?・・・いらんっ」
「ふふ、つれないなぁ」
男は本当に必要無いのか、それとも未だ何か企んでいるのか、顔を上げなかった。
導きの石などという大層な名前の石だが、そもそも大した物では無いのかもしれない。
ただ、そうなると男には違法露店以外の罪も出てきそうだが・・・。
「ほらっ」
「いや、本当に良いんだ。君に持っていて欲しいのさ」
「断る」
「ふふ、どうして?」
「当然だろ。お前の頼みを聞く必要は無いし、何より、こんな怪しい男から渡された物を保持し続ける理由が無い」
「非道いなあ」
そもそも、此れが何らかのマジックアイテムである可能性は捨てきれず、爆発物や或いは、発信機的な物であるかもしれない。
それ程に、マジックアイテムに流れる魔力を読み取る事は難しいのだ。
「本当に大丈夫だよ」
「・・・」
「心配なら、そういう知識のある人に聞いてみると良いよ?」
「そういう事は、顔を隠さずに伝えるべきだな」
「ふふ、分かっ・・・」
男が俺からの指摘に応える様に顔を上げようとした・・・、瞬間。
「司ーーー‼︎」
「ん?アル・・・、っ⁈」
背後から飛んで来た俺を呼ぶ声に、振り返ると其処にはアルメと応援に来たと思われる兵士達がいた。
だが、俺は別のものに反応していた。
「来るなっ、アルメ‼︎」
「え?」
「ふふ、仕掛けてお・・・」
「くっ・・・」
俺からの怒号に、驚き立ち止まったアルメ達。
背後で何事か発せられた男の言葉も確認せず、俺は翼へと魔力を込め、アルメ達に向かい翔けた。
「逃げろ‼︎」
「?」
俺の放った言葉に対し、その表情に疑問符を浮かべたアルメ。
アルメ達には見えていない様だった・・・。
彼等の足下に広がる、広範囲の魔力の流れが‼︎
(間に合えぇぇぇ‼︎)
俺は其の魔力の流れから、どの様な魔法が放たれるか分からなかったが、規模の大きさに高い危険度を感じ、深淵より這い出でし冥闇の霧の届く地点を全速力で目指した。
「つか・・・」
「ふふふ」
アルメ達の足下に発動した極大の魔法陣。
俺は翼に込めていた魔力を、掌に集中し前方に伸ばした。
「深淵より這い出でし冥闇の霧ラァァァーーー‼︎」
「・・・っ⁈」
俺が詠唱した魔法陣から這い出でる漆黒の霧は、アルメ達の足下一面に広がり、アルメ達の足下の魔力の流れに覆い被さった。
「へえ、でも」
「・・・っ」
男は構わず魔法陣を描き、漆黒の霧の下から何かを放った。
「・・・くっ‼︎うわあぁぁぁーーー‼︎」
「司‼︎」
霧の先で何が発せられたかは分からなかったが、いつ終わるとも分からぬ魔力の流れ込みに、俺は全身の空気を全て吐き出すかの様な絶叫を上げ・・・。
「あ、あ・・・、・・・」
やがて、意識が途切れてしまったのだった。
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