第252話


「ん・・・」


 全身に重りを付けたかの様に、深く底から引かれる力に抗う様に身体を起こした俺。

 どうやら此処はベッドの上らしかった。


「どうし・・・、て?」


 アルメ達はどうなったのだろう?

 無事なのか?

 ただ、俺が運ばれているという事は、彼等の仕事だと考えるのが自然だろう。


「とにかく・・・」

「動くんじゃないよっ」

「・・・っ⁈」


 突然飛んで来た咎める様な、厳しい口調の声。

 其方に視線を向けると、其処には紅色の髪を持つ女、シエンヌが立っていた。


「え、え〜と・・・?」

「・・・ちっ」

「・・・アルメ達は?」


 相変わらず俺に会うと不機嫌そうな様子のシエンヌ。

 俺は無理そうな世間話より、本題に手早く入った。


「アルメ?ああ、あの若い優男かい」

「そうです。私の同級生なので気になりまして」

「ふんっ」

「・・・」

「アンタを運んで来た兵達は、すぐに現場に戻ったよ」

「そうですか」


 シエンヌに確認すると、アルメ以外の兵達にも怪我人は出ていないとの事だった。


「ふぅ〜・・・」

「・・・」


 俺は自身の魔法が無駄になっていなかった事に、一安心し息を吐いた。


「犯人の男は?」

「さあね?アタシは現場に居た訳じゃないんだよ」

「そうですね、すいません」

「・・・」


 応えられて気付いたが、当然の返事だろう。

 そもそも、シエンヌは犯人の顔を見て無いのだ。

 俺は自身の意識に、未だ混乱が残っているのか疑いたくなった。


「とにかく、休んでな。直にフォールも来るだろうさ」

「え、えぇ・・・」

「あん?何だい?」

「いえ、今って時間は?」

「昼過ぎだよ。それがどうかしたのかい?」

「実は行き先は告げずに出て来たので」


 ローズには学院に顔を出すとは告げたが、その後ディシプル迄飛ぶ事は告げていなかった。


(夕方迄に戻れば問題無いが・・・)


 此処からリアタフテ家の屋敷迄は約2時間。

 ただ、先程の戦闘でかなり魔力を消費したので披露が大きい為、時間に余裕を持ちたかった。


(力が戻らないんだよなぁ・・・)


 俺はアイテムポーチから魔力回復薬を取り出し、一気に飲み干した。


「・・・はぁ〜」

「・・・」

「・・・う〜ん?」


 戻らない力、続く脱力感。

 俺は追加の魔力回復薬を飲んだが、正直その瓶を持つ事ですら、疲労感から億劫だった。


(彼奴の魔法・・・)


 戻らない力に、俺はあの男の使ったと見られる魔法に原因を感じていた。

 発動したと同時に飲み込んだ為、どの様な効果か分からなかったが、余程危険な魔法だったのか・・・。


(属性は不明だが、彼奴の使った魔法をみると雷属性だったのか?)


 ただ、あの規模の魔法を防いだ事は初めてだった為、その影響も考えられるが・・・。


「・・・」

「・・・ふんっ」

「・・・」

「何、辛気臭い顔してんだい」

「え?そうですか?」

「はぁ〜」


 戻らない力に、精神的に沈むところも有り、それが表情に表れていたらしい。

 シエンヌはそんな俺を見て、仕方なさそうに溜息を吐いた。


「フォールには伝えておくから、今は休みな」

「でも・・・」

「そんな表情で1人で出立して、その違法露店の男に出くわしたらどうなるんだい?」

「いえ・・・」


 実は帰宅自体は、転移の護符も使えるのでその可能性は無いのだが・・・。


(確かに魔流脈のダメージが回復してない可能性も有るし、その状態で転移の護符を使って、以前の様な事故が起こらないとは言い切れない)


 此処はシエンヌの言う通りにしておくべきだな・・・。


「・・・分かりました」

「じゃあ、フォールを通じてリアタフテには連絡しておくよ」

「ありがとうございます」

「・・・ふんっ」


 そう言って、部屋から出て行ったシエンヌ。

 俺は靡く紅の髪を眺め、ベッドに再び沈んで行ったのだった。

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