第238話


「おぉぉ・・・」

「う〜」


 近付いて行く事で徐々に竜巻の規模が判明し、俺は感嘆も混じった唸り声を上げ、凪も反応する様に声を上げた。


「此処から眺めるだけにしないか?」

「うう〜」

「・・・はいはい、分かったよ」

「うぅぅぅ」


 凪からの不満の声に徐々に寄って行く俺だったが・・・。


「ん?」

「うっ?」

「あ、あぁ、動きが無いなぁ・・・」

「う〜?」


 近付いて行く俺達と竜巻の距離は離れる事も無く、徐々に縮まって行き、彼方はリエース大森林跡に鎮座していた。


「・・・っ」

「う〜」


 リエース大森林跡へと降り立った、俺と凪。

 眼前には直径で50メートル程だろうか、竜巻が存在していた。


「う〜ん・・・」

「あ〜あっ?」

「あ、あぁ、デカイなぁと思ってな」

「う〜」

 

 凪の手前、俺は余裕のある態度を見せながらも、本心は後退りしていた。


(此れは・・・)


 正直なところ、日本に生まれ育った俺には、あまり竜巻というものに馴染みは無いのだが・・・。


「勿論、動かない竜巻も有るのだろうけど・・・」

「う〜?」

「あぁ、魔法?」

「ううぅ?」

「・・・う〜ん?」


 眼前の竜巻には不思議と魔力の様なものを感じた。


「・・・」

「あ〜あっ?」

「・・・」


 少し可哀想な感じもしたが、凪からの呼び掛けにも反応をせず、俺は自身の瞳に魔力を込め、竜巻を凝視した。


「・・・」

「う〜?」

「・・・やはり」


 魔力を込めた瞳で見据えても竜巻には何の変化も無かった。


「不自然だな」

「う〜?」

「ん?あぁ、此れが普通の竜巻なら、寧ろ中心が見やすくなったりすると思うんだ」

「うぅぅ?」

「其れが出来ないって事は、俺より優れた存在が魔法や其れに近い力で発生させてる可能性が高いんだよ」

「うううっ」

「ん?あぁ、大丈夫だよ。ありがとう、凪」

「う〜」


 弱気な発言に、態度も其れを感じさせたか、凪は俺を慰めてくれている様だった。


「・・・っ⁈」

「・・・」

「どういう・・・?」


 突如として規模を増し始めた竜巻。


「くっ‼︎」

「・・・」


 俺は考える間の猶予も無く闇の翼を広げ飛び退いた。


「・・・っ」

「うううぅぅぅ‼︎」

「な、凪っ‼︎ジッとしてろっ‼︎」


 俺の胸元の抱っこ紐で暴れ出した凪。

 俺は凪を苦しい位に抱きしめながら、動きを抑えた。


「ううう‼︎」

「危ないんだ、凪‼︎言う事を聞くんだ‼︎」

「ううーーー・・・、うっ‼︎」

「・・・っ‼︎」


 双眸に金色の輝く魔眼を開いた凪。

 其の俺の両手に収まる小さな身体に、叛逆者の証たる常闇の装束による闇の衣を纏ったのだった。


「ちっ、此れも使えるのか‼︎」

「ううーーーうっ‼︎」

「ぐっ‼︎」


 凪や背に広げられた闇の翼。

 はためく翼の噴射に、一瞬視界を失った俺。


「ううぅぅぅ‼︎」

「くっ‼︎本当に・・・‼︎」

「う〜‼︎」


 其の間で竜巻へと接近していた凪。

 俺は自身の翼による飛翔の訓練を思い出し、初めての経験で其れを成し遂げた凪に、感心を含む呆れの感情を示した。


(深淵より這い出でし冥闇の霧で魔法を解除するか・・・)


「いやっ、いざと言う時にっ‼︎」

「ううう‼︎」

「はあぁぁぁ‼︎」


 俺は万が一の場合の凪自身の防衛本能に賭け、凪の魔法の解除を辞めておき、自身の翼に魔力を込めた。


「うううぅぅぅ‼︎」

「凪ぃぃぃーーー‼︎」


 目一杯に腕を伸ばし、凪へと翔ける俺。

 凪は此方へ背を向けたまま、竜巻へと其の小さな掌を伸ばした。


「うーーーーーー・・・、うっ‼︎」

「・・・っ‼︎」


 絶望感から一瞬の間瞳を閉じた、俺の耳へと飛び込んで来た凪の咆哮。

 覚悟を決め瞳を開くと・・・。


「な・・・⁈」

「う〜うう、ううう、う〜う〜うう〜」

「・・・」


 規模にこそ衰えは無いが、明らかに先程迄よりも威力が弱まった竜巻。

 凪は其の外面に掌で触れていて、其の様子は竜巻を抑える様にも、支える様にも見えた。

 そして・・・。


「歌ってる?」

「うう〜〜〜う・・・、ううう、う〜ううっ」

「・・・ん?」


 凪の歌声に反応する様に、淡い輝きを放ち始めた竜巻。


「あ〜あっ」

「ん?どうした、凪?」

「うう〜う」

「大丈夫って・・・、事か?」

「うっ」

「・・・」


 俺に応えて来る凪。

 其の表情には、若干の笑みを浮かべていた。


「お、おおぉぉぉ・・・」

「うううーーー、うっ‼︎」


 竜巻全体から放たれていた淡い光が、竜巻の中心部へと集まり、徐々に強まって行き・・・、刹那。


「・・・っ‼︎」


 一瞬の閃光を放ち、其処に現れた紋章。


「あれは・・・」


 其れは終末の大峡谷で見た、大魔導辞典にスヴュートの血によって印されたものに良く似たものだった。

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