第222話
俺は夕陽が沈んだかの様な色の海を背にし、漆黒の夜空を翔けていた。
目的地は街の手前の街道。
俺は、フォール達を迎撃する為に移動するディシプル軍の側面を突きに向かっていた。
(俺の足留めが成功すれば、フォール達も楽に戦えるし、モンターニュ山脈から突撃して来る援軍と挟み撃ちも出来る)
援軍さえ到着すれば戦力差は逆転するが、此方側の被害が少ない方が、戦後の復興や統治への不安も減るのである。
「見えて来たな」
視線の先、街道を進むディシプル軍の隊列が見えて来た。
(さてと・・・)
敵は夜空に溶け込むマントを纏った俺の存在には、まだ気付いていない様だった。
真っ直ぐ街の方角へと進行しているディシプル軍。
俺は奇襲のタイミングを計った。
(狙いは先頭と中間の間・・・)
静寂の中、蹄の音を聞きながら一瞬で肺を空気で満たし・・・、刹那。
「狩人達の狂想曲・・・、フルバーストッ‼︎」
「・・・⁈」
ディシプル軍の隊列の側面、地面へと降り立った俺は、九十九門の魔法陣を詠唱し、其処から生み出された闇の狼達が漆黒の大波を形成し、ディシプル軍勢へと流れ込んだ。
「な、なん・・・、ぎやゃゃゃあぁぁぁ‼︎」
「ぐわあああーーー‼︎」
「ど、どうし・・・、っっっ‼︎」
突然の事に状況の確認は出来ていないのだろう。
闇に紛れる俺の生み出した、闇の狼達の奇襲にディシプル軍は隊列の秩序を維持する事が出来ずに混乱していた。
(良しっ、もう一発っ)
「狩人達の狂想曲フルバーストゥゥゥ‼︎」
再び詠唱された魔法陣から、生まれ出でる闇の狼達がディシプル軍勢へと襲い掛かるのと同時に、俺は自身の背に翼を広げ空へと飛んだ。
「あ、彼処っ‼︎」
「な⁈」
「・・・」
ディシプル軍の中に夜目の効く者が居たのか、何処からか飛んで来た声に、一斉に視線が空の俺へと集まった。
(だけど・・・、遅いっ‼︎)
「な、何で・・・⁈」
「どういう事だ⁈」
「う、裏切っ・・・、わあぁぁぁ‼︎」
何か不穏な事を口にしようとした軍人が居たが、俺が構えると恐怖から混乱し、城の方へと今来た道へと駆け出した。
「行くぞ・・・、雨ァッ‼︎」
奴等にしてみれば、突如として上空に現れた俺に、一瞬固まってしまったのも仕方ないだろう。
だが、其れは俺の生み出す闇の世界への誘いの雨の、格好の餌食だった。
「なっ、あぁぁぁ‼︎」
「があぁぁぁーーー‼︎」
「うわあぁぁぁ‼︎」
漆黒の雨を浴び、爛れた皮膚から真紅の鮮血が滴るディシプル軍の連中。
全身に止まる事無く続く痛みに、隊の立て直しや俺への反撃が遅れていた。
(此の隙は逃さない・・・)
「・・・霧‼︎」
「っっっ‼︎」
漆黒の雨から発生し、ディシプル軍を包み込む常闇の霧。
ディシプル軍は痛みと脱力感から、悲鳴を上げる事も出来ずに崩れ落ちていく者が続出していた。
其れを確認し、俺は闇の霧を自身に集結させた。
(ふぅ〜、結構回復したな・・・)
俺は自身の魔力の回復を感じ、楽になった身体を、翼の力を弱め低空へと降りた。
「くっ‼︎」
「このおぉぉぉ‼︎」
「・・・」
目の高さ迄俺が降りて来た事で、怒りが溢れて来たのか、沈んでいたディシプル軍勢に生気が戻って来た。
「・・・」
「な、な、な・・・」
「ぐうぅぅぅ」
怒気を増すディシプル軍人達に、背を見せ一瞬の間両手を広げ無抵抗の瞬間を作った俺。
「・・・ふっ」
「・・・っ‼︎」
「許すなあぁぁぁーーー‼︎」
「追えーーー‼︎」
口元のみ空いたフードを被った顔。
其れを横目だけディシプル軍勢に向け、口だけで笑い、街の方角へと飛び出した。
(追って来てる、追って来てる)
連中は俺からの挑発に乗り、崩れ落ちた仲間を踏み付けながらも、全力で俺を追って来た。
「・・・」
「くそおおお‼︎」
「討ち取れっ‼︎」
俺は街へと辿り着き、街の住居の間を縫う様に飛び、ディシプル軍を出来る限り街へと誘い込んだ。
(そろそろか・・・)
やがて街一面はディシプル軍人達で覆い尽くされ、俺は自身への被害を避ける為、上空へと昇り白銀の月を背にした。
「・・・ふっ、発動だっ‼︎」
俺が罠の発動を念じた・・・、刹那。
街を、其れを覆い尽くしたディシプル軍人達を、そして・・・、夜の闇さえも飲み込みんでしまった爆炎。
「・・・っ」
俺は自身の眼前に落雷でも起こったかの様な轟音に、自身の耳を痛みが伴う程塞いだのだった。
「あ・・・、つっ」
夏とはいえ、夜風の涼やかな立地であったが、街を覆い続ける炎による熱は、かなり上空迄避難していた俺にも届いたのだった。
「・・・ん?」
地上の観察をすると、関所周辺の防衛網の一部に切り崩された部分が見え、其処からサンクテュエール軍が此方へと突撃して来るのが見えた。
「・・・終わったな」
モンターニュ山脈の麓に見える松明の明かりの数。
其の数は優にディシプル軍の残存兵の倍に見え、俺は勝利を確信した。
「・・・っ」
口元に漏れそうになった笑み。
然し、其れは白銀の光を浴びていた自身の背が、其の穏やかな光を失うのを感じ留めたのだった。
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