第223話


「・・・来たか?」

「・・・」


 耳に魔力を込めた俺の耳に、微かに布の擦れる音が流れて来て、俺は横に逸れながら背後を振り返った。


「・・・っ」

「・・・」


 一瞬の間前に俺が居た位置を、通り過ぎて行く光の衝撃波。

 視線の先、俺より身体1つ分程上空には、仮面の男が月光を背に受けながら飛んでいた。


「相変わらずダンマリか?」

「・・・」

「なぁ、何でお前は俺と同じ魔法がつかえるんだ?」

「・・・」

「お前も地球から召喚されたのか?」

「・・・」

「なぁ、何とか言ったらどうなんだ?」

「・・・」

「ふぅ〜・・・」

「・・・」


 俺からの質問に、身動ぎすらせずに無言でいる仮面の男。


「・・・」

「・・・」

「・・・なぁ?」

「・・・」

「お前も・・・。・・・お前も、大魔導辞典を持っているのか?」

「・・・」


 核心を突く問い掛けにも、仮面の男に動揺は感じられず、俺はアイテムポーチから剣を取り出し構えた。

 相手の手には妖刀白夜が有る事を考えると、武器の性能差は歴然だった。


(打ち合いは不利、魔法も・・・)


 地上を見ると、前回と同じ様にマントを纏った連中が十数名見えた。


(とにかく味方の合流迄粘るか)


「・・・波ッ‼︎」

「・・・」


 漆黒の衝撃波を放つと共に、翼に力を込め相手との間合いを詰める。


「・・・」

「ちっ‼︎」


 自身に襲い掛かる衝撃波を遇らう様に白夜で払った仮面の男。


「此れなら・・・、衣」

「・・・」


 俺と仮面の男の間合いは、既に至近距離。

 白夜を持つ右腕を目掛けて、闇の衣を放ち相手の対応を見る。


「・・・」

「・・・」


 其れを白夜で払いガラ空きになった左半身。

 俺は夜風を斬り裂き、異様な風切り音をたてながら斬撃を放った。


「・・・」

「・・・くっ」


 空中で見事な体捌きを見せ、後方へと躱した仮面の男。


「逃がさんっ‼︎衣‼︎」

「・・・」


 俺は斬撃を放った右手から、剣を放り投げ自由にし、闇の衣で仮面の男を捕らえる事に成功する。


「へへへ、捕まえたっ」

「・・・」


 其のまま右手に力を込め、仮面の男を引き寄せ、自身の上空で羽交い締めにし・・・、次の瞬間。


「雨アァァァーーー‼︎」

「・・・」


 未だ炎の残る街へ、そして俺と仮面の男へと降り注ぐ漆黒の雨。


「ぐうぅぅぅ」

「・・・っ」


 仮面の男は俺の腕の中、激しく抵抗し逃れ様としたが、勿論其れを許す事など無かった。


「どうしたっ⁈苦しいなら悲鳴を上げても良いんだぞっ⁈」

「・・・っ」


 無論俺にも漆黒の雨の被害は有ったが、俺の傘となっている仮面の男の被害は俺の比では無かった。


「良いのか?此のままで・・・?」

「っっっっっーーー‼︎」

「ふふ、やっと答えてくれたか。・・・・・・なら、もう少し付き合ってくれ‼︎」

「・・・っ‼︎」


 此の状況でも吐息を漏らすだけに留めた仮面の男。

 俺は当初の目的を忘れる程に、其の声を欲した。


「さぁ、どうするっ⁈」

「・・・っ」

「・・・」


 仮面の男の左手に現れた魔法陣。

 其の手を俺へと振り上げて来たが、俺は其れを軽くいなした。


「言っとくが、お前の使う手は俺にとっては予定通りだぞっ」

「っっっ‼︎」

「・・・どうした?次は深淵より這い出でし冥闇の霧か?」

「・・・っ‼︎」


 俺は此の状況で其の手を使うのは、かなりの危険を伴う事を理解しつつ、仮面の男を挑発した。


「さぁ・・・、っ⁈」

「・・・っ」

「ちっ‼︎」


 空中で激しい揉み合いの様な状態の俺達を、突如として取り囲んだ炎の弾。

 問答無用で襲い掛かって来る其れに、俺は仮面の男を放り出し、その場を離れるのだった。


「・・・邪魔をして」

「・・・」


 俺の眼下には、金色の光る3本の尾を持つ、エルマーナが現れていた。

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