第204話
漠然としたイメージだった。
港街というものは、海を越え運ばれて来た珍しい商品を売る露天商が商売をしていて、行き交う人々も多く、活気に満ち溢れている様な、そんな所を勝手に想像していたのだが・・・。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
何だろう?
街の人間は何処か遠巻きに、俺達を監視する様に見ていて、露天商はおろか通常の商店や宿屋の扉にも休みの札が掛けられ、街の空気は沈みきっていた。
「暗いわねえ〜」
「おい、アンジュ」
「大丈夫よ、聞こえて無いわよ」
「・・・」
「こんな雰囲気だと、潮風がジメジメして、気持ち悪いわ」
「まぁ・・・、な」
アンジュが言うのも無理は無く、此処はとても過酷な航海をし、やっと陸に上がった者達を受け入れる場所には感じられなかった。
「どうしましょう、司様」
「あぁ・・・。此の雰囲気は此処に居るのは良くなさそうだな」
「ええ」
「まぁ、運良くモンターニュ山脈も見える事だし、其方へ向かおう」
「そうですね、其れが良いかと」
「ええ〜。もしかして、歩きで山越えをするつもりっ⁈」
「当然でしょ」
「嫌よっ。私はアンタと違って繊細に出来ているのよ」
「・・・なら、1人で此処に残れば良いでしょ?」
「ぐぐぐ・・・」
先程、やっと終わらせたのに、再び言い争いを始めた2人。
ただ、今回は若干、今迄の言い争いとは違い、明らかにフレーシュに分があるが・・・。
諦めが付かないのか、アンジュは俺の腕を取って来た。
「司ぁ〜」
「ん?無理だぞ?」
「ちょっと。ちゃんと話を聞いてよっ」
「そう言われても、もし此処で面倒事に巻き込まれたら、無事戻れる保障が無くなるからな」
「ええ〜、司なら大丈夫でしょ。ドラゴンだって狩ったのだし」
「・・・無理だ」
「どうしてよ?」
「俺にあの時と同じ力は現在無い。説明する気も無い」
「司様っ」
「ちょ、ちょっと・・・、待ってよっ」
俺はアンジュに取られた腕を振りほどき、素早く背を見せ、モンターニュ山脈の方角へと歩き出した。
少し冷たくなったが仕方ない。
現状、俺は最強とも言える切り札を制御出来なくなっているし、万が一にもアンジュやフレーシュに危険が及べば、俺だけの責任では済まないのだ。
「もう〜、司のケチッ」
「そうか」
「むう〜」
「不満なら、残りなさい。アンジュ」
「アンタが残りなさいよっ」
「・・・はぁ〜」
流石にアンジュも其処迄、我儘では無いのだろう。
不満気に頬を膨らませながらも、俺の後を追って来るのだった。
「う〜ん・・・」
「どうするのよ?」
「そうだなぁ・・・」
「穴が無いか、探してみますか?」
「一応・・・、な」
街から小一時間程、歩いて着いたモンターニュ山脈だったが、其処はしっかりと関所が引かれていて、関所周り以外も、ディシプル兵が突破の穴が無い位に点在していた。
「まぁ、当然と言えば当然か」
「そうですね。あとは強行突破が可能かですが」
「・・・」
「な、何よっ。私の方を見て?」
「いや、何でも無いぞ」
「そ、そう?」
俺がフレーシュへと視線を送ると、彼女は静かに首を振った。
日頃、冷静なフレーシュが彼処迄、感情を露わにするという事は、アンジュとの関係は俺が思っている以上に深いものなんだろう。
其のフレーシュが、力不足と判断するという事は、アンジュが余程の急成長を遂げていない限り厳しだろう。
(王都での一件を見ても、あまり荒事に慣れてはいなそうだし・・・)
俺がアンジュを抱えて飛びながら、上空から援護しつつ、フレーシュに突破して貰うの手段としては有るが、フレーシュは近接戦闘に弱点が有るし、弓による射撃は瞬時に対応出来る訳では無いからなぁ・・・。
(とりあえず、警戒の隙を探して、無理なら商船に乗れる様に交渉してみるか・・・)
その後、俺達はモンターニュ山脈に入山出来る場所が無いか夕方迄、探してみたが見つかる事は無く、仕方なく一度街へと戻るのだった。
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