第205話
街に戻ったは良かったが、宿屋は昼に閉められていた事は確認済みの為、俺達は途方に暮れ、港の方へ彷徨っていた。
「どうしますか、司様」
「う〜ん、何処かに紛れ込んで、夜を明かすかなぁ?」
「ええ〜、野宿するつもりなの⁈」
「仕方ないだろう?宿屋が閉まっているんだから」
「だから、教会に行けば良いじゃないっ」
「反対だな」
「そうですね」
アンジュからの提案を、俺とフレーシュは一蹴した。
「な、何でよっ⁈」
「・・・国境沿いにあれだけの警戒網を敷いているんだ、既に教会が其の機能を為して無い可能性が高過ぎる」
「ぐっ」
教会が如何に弱者の味方とはいえ、結局は国の法は国王なのだ。
そして、あの警戒網からも分かる通り、現在ディシプルは俺達サンクテュエール関係者を受け入れる可能性はゼロと言って良かった。
「それにしても・・・」
「ええ・・・」
港では店も閉まっているのに、何処で使うのだろうか?
作業員達が船の積荷を、街の方角へと運んでいた。
ただ、その表情は一様に・・・。
「ホント、暗いわねえ」
「・・・あぁ」
仕事をしているのだから当然。
そう言うにしても、全く口を開かず、それどころか作業員達は、呼吸音ですらなるべく出さない様にしている様子で、その光景は異様と言って差し支え無いものだった。
「・・・んっ」
「ん?」
「ええ〜ん‼︎」
「泣き声みたいですね」
「あぁ、彼方みたいだな」
俺達は声のする方、倉庫と倉庫の間の狭い通路へと向かった。
「わあぁぁぁん‼︎」
「女の子・・・?」
「大丈夫?」
其処には女の子が地面に四つん這いの体勢になっていて、甲高い声を上げながら、そのくりっとした瞳から、真っ赤な頰に涙を流していた。
「いあいー‼︎」
「う、うん」
「あああん‼︎」
「ほらっ、大丈夫よ。立てる?」
「ううん・・・、うえ〜ん‼︎」
「そう、転けたのかしら?」
「うん・・・」
ドギマギして何も出来ない俺に対し、フレーシュは女の子に語りかけながら、その状況を確認していた。
「とりあえず、傷ぐす・・・、あっ」
「どうかしましたか、司様?」
「いや、最近、激戦続きで傷薬を切らしていたんだった」
「そうですか・・・。不味いですね、私も丁度手持ちが・・・」
「ええ〜ん‼︎」
「大丈夫よ、ねっ」
(しまったなぁ、この間アームの所に行った時に買っておけば良かった)
俺は今、考えても仕方ないが、そんな事を思った。
「いあいぃぃぃ‼︎」
「困りましたね」
「あぁ、店も閉まっているからな」
「ええ・・・」
「ふっふっふっ」
「ん?」
困り果てる俺達2人の様子を、腕を組み、胸を張って不敵な表情で眺めるアンジュ。
「アンジュ、傷薬を持っているのか?」
「ふっふっふっ、無いわっ」
「いや・・・。なら、何でそんな・・・」
「あっ、そうか。アンジュッ・・・」
「黙ってなさいっ‼︎」
「・・・」
肝心の傷薬を持っていないのに、余裕の態度のアンジュに、フレーシュは何かを思い出したかの様だったが、それはアンジュによって止められた。
「ふっふっふっ、司。知りたい?」
「・・・え?」
「知・り・た・いっ?」
「あ、あぁ・・・」
「ふっふっふっ、仕方ないわねえ〜」
「・・・」
俺を下から覗き込みながら、言いたそうにしているアンジュ。
俺はその自信に満ちた態度に、気圧されてしまい、息を漏らす様に弱々しく返事をした。
「うあぁぁぁん‼︎」
「ふっふっふっ、もう大丈夫よ」
「・・・えっ?」
「怪我した所を見せて」
「う、うん・・・」
女の子は血が滲み赤くなった膝と、転けた時に着いたのだろう、擦り傷が刻まれた掌をアンジュに示した。
「・・・女の子だものね、綺麗にしてないと」
「ううう」
「じっとしててね」
「うん・・・」
「行くわよ。・・・『キュア』ッ」
「・・・っ」
アンジュが女の子の差し出した傷口に手を向け、呪文を唱えると通常詠唱で手の先から魔法陣が描かれ、淡い光が傷口を包み込み、徐々に傷口が塞がっていった。
「ふぅ〜・・・、他は大丈夫?」
「うんっ‼︎もう痛く無いっ」
「そう、良かったわね」
「ありがとう、お姉ちゃんっ」
「ふっふっふっ、どういたしまして」
女の子の礼に応えながら、アンジュは女の子の服と身体に付いた汚れを払ってあげていた。
「凄いな、回復魔法が使えたんだな?」
「ふっふっふっ、まあね」
「他は苦手なんですけどね」
「ぐぐぐ・・・。余計な事言わなくて良いのよっ」
「・・・あら、そう?」
「ちっ」
「は、はは・・・」
もう、何度目になったか思い出すのも面倒な2人の衝突に、俺は乾いた笑いを発するしかなかった。
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