第200話
「あら?珍しいわね」
「あぁ、久しぶりだなフェルト」
「お久しぶりです、マスター」
「本日は宜しくお願いします」
俺がアンジュの護衛役に任命された翌日。
俺、ルーナ、アナスタシアは、ローズからの許可を得て、ザックシール研究室に来た。
(それにしても、ローズは不機嫌だったなぁ・・・)
アンジュが到着する以前に、ローズからは許可を得ていたが、俺が護衛役になり、屋敷で過ごす時間が減った為、今日の外出を渋った。
(まぁ、アナスタシアの事も有るし、何とか許可は下りたが・・・)
「どうかしたのかしら?」
「ん?あ、あぁ・・・」
「マスター、司様はお疲れの様子です」
「そうねえ〜、何か有ったの?」
「ちょっと、面倒な仕事を受けていてな」
「ふふ、お人好しが過ぎると身を滅ぼすわよ」
「そうです、司様。ご自身を大事にして下さい」
「あぁ。ありがとう、ルーナ」
「それでは、魔流脈の方からチェックしようかしら」
「お願いします、フェルト様」
「ふふ、良いのよ。私も楽しみなのだから」
妖しく微笑むフェルトの眼鏡が一瞬光った様に見え、俺は正にマッドサイエンティストだなと思った。
「じゃあ、ちょっと出て来るよ」
「ふふ、良いじゃない?恥ずかしがらなくても?」
「そ、そんなんじゃ無いっ」
「ふふふ、どうかしら?」
「司様、大丈夫ですよ?」
「い、いや、大丈夫って、アナスタシア・・・」
アナスタシアの診察から先にするという事は、彼女のメイド服の下にある、日々のトレーニングで均整の取れた身体が露わになるという事で、流石に俺が室内に居るのは不味かった。
そうして、俺はそそくさと退散し、学院長室に向かい移動するのだった。
・・・・・・まぁ、見たく無いと言えば嘘になるが・・・。
「えっ、司様っ」
「ん?あぁ、フレーシュ」
学院長室に向かう途中の廊下。
今は丁度、昼休みでフレーシュと出くわした。
「どうしたのですかっ、復学がするのですかっ⁈」
「い、いや、今日はルーナとアナスタシアと一緒にフェルトの所に来てるんだ」
「・・・そうですか」
最初、跳ねる様な口調で喋っていたフレーシュは、俺の今日の目的を知り、口調が沈んでしまった。
「そういえば、ミニョンは?」
「お嬢様は補習です」
「・・・え?珍しいなぁ」
「はい・・・」
ミニョンはかなり成績優秀で、ローズが1年次の終わりに休学した事で、1年生の学科と実技を合わせた最優秀生徒に選ばれた程だった。
そのミニョンが補習とは・・・?
「お嬢様は最近、授業に身が入っていないのですよ」
「どうしたんだ?」
「・・・」
「ん?」
「司様、本気で言ってますか?」
「本気って・・・?」
「はぁ〜・・・」
俺の表情に現れていたであろう疑問に、フレーシュは答えてくれたが、良く分からない事を言って、溜息を吐くのだった。
「目標だったローズが休学してしまいましたからね」
「でも・・・」
「其れに司様も・・・」
「・・・」
「復学の予定は立たないのですか?」
「あぁ・・・。最近、リール様から別仕事迄受けたからなぁ」
「はぁ〜・・・」
ミニョンの事を思ってか、俯きながら足下に溜息を落としたフレーシュ。
「私もです・・・」
「えっ?」
「私も、司様が居ないと寂しいです・・・」
「フレーシュ・・・」
俺の考えを察してか、フレーシュは小さな声で呟いた。
その後、フレーシュは学院長室に向かう俺について来て、休み時間が終わる迄一緒にいて、名残惜しそうに教室へと戻って行った。
「終わったか?」
「ええ、早かったわね?」
「そうかぁ?」
「ふふ、まだ終わって無い事を期待したのじゃないかしら?」
「そんな事無いさ」
「ふふ、そお?」
「・・・」
俺がザックシール研究室に戻ると、アナスタシアの診察と、ルーナの定期検査は終わっていた。
「大丈夫だったのか?」
「そうね。今のところは順調よ」
「そうか。良かった」
「ありがとうございます、司様」
アナスタシアの経過も順調らしく、俺はホッと胸を撫で下ろした。
「ただ、まだ無理はしないでよ」
「はい、分かっています」
「ふふ、本当かしら?」
「はい」
フェルトからの忠告にはっきりと返事をしたアナスタシアだったが、フェルトは何処か信じられない様に、聞き返していた。
「ちゃんと、見張っておいてよ」
「あぁ、屋敷の人間には言っておくよ」
「ふふ、お願いね」
「じゃあ、またな」
「ふふ、慌ただしいわね?」
「まぁ、仕事も有るしな」
「そういえば・・・」
「どうした?」
「今、開発してる物が有って、近いうちに其れの実験を手伝って欲しいのだけれど?」
「開発してる物?」
「詳細については、其の時に説明するわ」
「あぁ、分かった」
「ふふ、ありがとう」
そうして、俺達はザックシール研究室を後にするのだった。
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