第196話


 翌日、再びローズから外出時間の確認をされ、俺はダンジョンに向かって馬を走らせていた。

 飛んで行った方が早いのに、何故馬で移動してるかというと・・・。


「すいません、司様」

「いや、大丈夫だよ。アナスタシア」


 本日はアナスタシアが同行者として付いて来ていたからだ。


「でも、ラプラスへの礼なら、もう少し落ち着いてからでも良いんじゃないのか?」

「いえ、命の恩人のお一人ですし。それに、その魔人様は旅の省略に必要な、転移の護符を与えて下さったという事ですし」

「まぁな・・・」


 正直、アナスタシアの誠実さと律儀な性格は分かるが、彼奴の豪胆な性格を考えると対して気にしていないと思うし、何より昨日仕事を再開したばかりなのに、今日は乗馬迄再開するのは身体に掛かる負担が心配だった。

 そうして、屋敷から30分程馬を走らせダンジョンへ到着した。


(帰りの時間を考えると、滞在時間は1時間かぁ・・・)


 その間に、神龍の居場所と其処への道筋を聞かないといけなかった。


(まぁ、とりあえずスヴュート以外で1番近い神龍の物で良いのだけど)


 そうして、俺は帰還の護符に魔力を込め、ダンジョン最深部へと向かうのだった。


「ラプラスー?」


 今日は何時ものダンジョン最深部のフロアにラプラスの姿は見当たらず、俺は奴の名を呼び掛けてみた。


「う〜ん・・・」

「外出中みたいですね」

「外出は無いとは思うんだけど・・・。ラプラァーーース‼︎」


 俺が大きめに声を張り上げると、突如としてフロアが振動し始めた。


「じ、地震か⁈」

「天井は大丈夫なのでしょうか?」

「どうだろう?ただ、地面の方が・・・」


 アナスタシアの言葉通り天井から、指先大の石塊が降って来ていたが、それよりも地面の揺れの方が強く、俺は底が抜けないかの方が心配だった。


「ぐっ‼︎大丈夫か、アナスタシア⁈」

「は、はいっ・・・」

「・・・っ」

「カアァァァーーー‼︎」

「っ⁈」


 フロア全体の振動と共鳴する様な咆哮が響き、地面を割きながら目当ての人物が現れた・・・。


「誰だあぁぁぁ‼︎我が名を連呼する不届き者はあぁぁぁ‼︎」

「・・・」

「我を最強の魔人ラプラス様と知っての行為かっ‼︎」

「おい・・・」

「貴さ・・・、何だ貴様か」

「あぁ・・・」

「今日は何の用だ・・・?」

「ん・・・、え〜と」


 俺は自身の用件より、先にアナスタシアを紹介したかったが、ラプラスの姿の所為でそれが躊躇われた。


(何で此奴・・・、素っ裸なんだっ‼︎)


 俺がラプラスの股に下がった、サツマイモから目を逸らすと、視線の先には珍しく赤面し視線を落とすアナスタシアが居た。


(俺がツッコムしか無いのか・・・)


 俺は諦めて、ラプラスに現状を指摘するのだった。


「おい、ラプラス」

「何だ?」

「そのぉ・・・、下だけでも履いてくれないか?」

「・・・ん?おお、そうか、忘れていたぞ」

「そうか、早めに頼むよ」

「くく、男同士で気にする事でもあるまいっ」

「・・・」

「くく、さては貴様。自身の物の情けなさを意識させられるからだな?」

「い、いやぁ・・・」

「くく、くくく、ははは」


 勝手な勘違いをし、自身の腰に手を当て高笑いをするラプラス。


(そんなんじゃ無いやいっ‼︎)


 俺は少しムッとしつつ、ラプラスに向けアナスタシアを指し示した。


「・・・ん?」

「今日は同行者が居るんだ」

「くく、ほぉ?女子か」

「あぁ、今回の件で礼が言いたいという事で、一緒に来たんだ」

「今回の件でか・・・。・・・ん?」

「早く、履いてくれ。紹介したいし」

「も、もしや・・・、アナスタシアという・・・?」

「ん、早めに頼むよ」

「く、くく・・・・・・。ちょっと待っていろおぉぉぉ‼︎」

「お、おお・・・」


 ラプラスはサツマイモを丸太の様な太腿に打ち付けながら、フロアの奥へと駆けて行ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る