第197話


「え、え〜と・・・、それでラプラス?」

「な、何だ?」

「改めてだけど、アナスタシアだ」

「はじめまして、ラプラス様。アナスタシアと申します。この度はありがとうございました」

「お、おお・・・」


 フロア奥から下を履き戻って来たラプラスは、気恥ずかしさからか、何時もとは少し様子が違っていた。


「今日は俺もお前に聞きたい事が有ったんだが、アナスタシアが礼を言いたいって事で、一緒に来たんだ」

「そ、そうか・・・。だが、必要無いぞ・・・」

「いえ、そういう訳には行きません」

「ん、んんん・・・」

「まぁ、アナスタシアはこういう感じだから」

「う、うむ。まあ、構わん。そこまで言うならば、貰っといてやろう」

「ありがとうございます」

「・・・」


 純粋な態度で礼を言うアナスタシアに、ラプラスは少し困った様な様子だった。


「何か、私に出来るお礼が有れば良いのですが・・・」

「う、ううむ・・・。そ、それならば・・・」


 何かしら礼の指定があるのか、言葉に詰まりながらもラプラスは何か言おうとした。


(まさか、とんでもない事を頼んだりしないよなぁ・・・)


 俺は少し心配しながら、ラプラスの言葉を待った。


「し、酌を頼もうか・・・」

「お酌ですか?その様な事で・・・?」

「か、構わんっ」

「そうですか・・・」

「あぁ、そういえば手土産を持って来たんだ」


 俺は用意して来た芋焼酎を、アナスタシアに手渡した。


「どうぞ」

「う、うむ・・・」

「・・・」


 アナスタシアは芋焼酎を、ラプラスの持つロックグラスへと注いだ。


「んん・・・」

「・・・」


 ラプラスは香りを楽しむ様に、ゆっくりと喉へと流し込んだ。


「ラプラス?」

「ん?何だ?」

「今日はそう時間が無くてな」

「うむ、そうか」

「手早く用件を済ませたいのだが、神龍の事なんだ」

「・・・神龍」

「あぁ、スヴュート以外で神龍って何頭位居るんだ?」

「そうだな。奴以外だと、7頭だ」

「そうか・・・」


 俺は一応其の属性についてラプラスに問い掛けてみると、予想していた通りの返答が返って来た。


「火・水・土・風・氷・雷・闇の7頭だ」

「・・・」

「くく、どうした?」

「いや、何でも無いよ。其奴らの居場所って分かるか?」

「さあな」

「でも、スヴュートは・・・」

「奴は毎回転生の際に会うからだ。他は確定しているとは言い切れん」

「それでも、何か手掛かりが有れば教えてくれないか?」

「そうだな・・・」


 グラスに口を付け考え込むラプラス。

 俺は静かに続きを待った。


「土の神龍『ゼムリャー』は、ドワーフの連中なら何か知ってるかもな」

「土の神龍ゼムリャーかぁ・・・。ドワーフの知り合いとか居るか?」

「くく、居らんっ」

「そうか・・・」


 ドワーフかぁ・・・。


「・・・あっ」

「何だ?貴様に居るのか?」

「いや、俺の知り合いでは無いんだが・・・」


 1人思い浮かんだのは、ブラートと共に居たドワーフの男。

 たしか・・・、アルティザンといったか。


「そうか。ただ、奴らは鍛治を生業とする者が多い。ゼムリャーは鉱石に恵まれた土地に住むと聞いた事が有るが・・・」

「なるほど・・・」


 ブラートは最後に会ったのは春先だったから、既に船を手に入れて旅に出ているだろう。


(ディシプルかぁ・・・。フォールは無事なのだろうか)


 俺はブラートから渡された手紙の入ったアイテムポーチを触れながら、思いを馳せるのだった。


「それでは、司様」

「あ、あぁ。そんな時間か・・・」

「何だ、もう行くのか?」

「あぁ、家族が待ってるからな」

「そうか・・・」

「また、近いうちに来るよ」


 珍しく何処か寂しそうなラプラスの様子に、俺はついそんな事を口にしていた。


「くく、良かろう。許可する」

「あぁ」

「では、ラプラス様。本当にありがとうございました」

「くく、構わん」

「はい・・・」

「・・・」


 アナスタシアとラプラスの交差する二つの視線。

 其の瞳は・・・。


「何だ?」

「い、いや、何でも無いよ。じゃあな」

「・・・ああ」

「それでは失礼します」

「うむ・・・」


 そうして、ラプラスに別れを告げ、俺とアナスタシアは屋敷へと急ぐのだった。

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