第193話


「ぐうぅぅぅ‼︎」


 俺は激しい衝撃波に吹き飛ばされ、其の背が神木へと打ち付けられた。


「・・・っ‼︎やっぱり、意味はあるんだな」


 此処はリアタフテ領の神木の下。

 俺は今回、終末の大峡谷で神龍の血との謎の共鳴により、何らかの変化を遂げた龍神結界・遠呂智の状況を把握しに来ていた。


「光の神龍スヴュートかぁ・・・」


 結論から言えば、当初は火・水・土・風・氷・雷・光の7匹の龍が目標に襲い掛かり、其れ等を全て闇の龍が飲み込み消滅させていた物が、光の龍の威力だけが上がり、バランスを失った魔法は制御出来なくなってしまった。


「消せないんだよなぁ・・・」


 俺は大魔導辞典に記された紋章を消す為、上から塗り潰そうとしてみたが、どんな筆記用具を使っても其れを消す事は出来なかった。

 それならばと、ページを破ろうとしてみたが、此れもどんなに力を入れても破れず、燃やす事も出来ないのであった。


「諦めるしか無いのか・・・、或いは」


 或いは、光の神龍が居たと言う事は他の神龍も居る可能性もある。

 其れ等を全て狩り、魔法のレベルアップを図るか・・・。


「あんな形で破られてしまったからなぁ・・・」


 詠唱さえ完成すれば、絶対的だと思っていた此の魔法。

 あの夜の戦いで、仮面の男を仕留められなかった事実が重くのし掛かっていた。


「ふぅ〜・・・、考えていても仕方ないかぁ」


 今日の俺に与えられた時間は後1時間程。

 俺は次の目的地である、街の冒険者ギルドへと移動を開始するのだった。


「これは婿様。この度はお世継ぎ誕生おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 街に着くと、1人の壮年の男性が声を掛けて来た。


(子供達が生まれてから、こういう事が増えたよなぁ・・・)


 それまでは、少し距離を置いた所から一礼をして来る程度の挨拶だったが、最近はこうして直接、俺に声を掛けて来る事が増えていた。


「式の日取りは決まりましたか?」

「え、え〜と・・・」

「我らリアタフテ領民一同、その日を今か今かと楽しみに待っています」

「ありがとうございます。ローズの体調が落ち着いて発表出来ればと・・・」


 今回の一件もあり、俺とローズは当初予定されていた結婚式の予定を、一度白紙に戻したのだった。


「そうですか。司祭のルグーン様も王都に戻られたそうで・・・」

「・・・っ、そうですねぇ・・・。急用のようでして・・・。また近いうちに正式に発表させて頂きますので・・・」

「そうですか、楽しみにしています」


 急用で王都へ戻った。

 其れが、今回の一件を国王へと報告した際、ルグーンの不在に対する説明として、使用する様に指示された内容だった。

 国教の司祭であったルグーンの犯行は、万が一公になると、領民はおろか、国中が混乱してしまう為、一部の人間にしか知らされておらず、此のまま、闇に葬り去られる事になったのだった。

 領民の男性は俺へと一礼をし去って行き、俺も冒険者ギルドへと向かうのだった。


「アームさん、こんにちは」

「おお、若様、いらっしゃいませ。本日はどの様なご用件で?」

「えぇ、剣を探してまして」

「剣ですかな・・・?」

「えぇ・・・」


 俺は仮面の男の操る白夜によって折られた剣をアームに見せ、代わりになる剣を求めたが、良い返事は返って来なかった。


「すいませんが、これ程の業物の代わりは用意出来ませぬ」

「形状や重さが近いだけでも良いので・・・」

「うぬぬぬ、何とかしてはみますが、期待は・・・」

「分かりました。とりあえずお願いします」

「ははあ〜」


 俺はアームへの注文を済ませ、急いで屋敷へと戻るのだった。


 リアタフテ家の屋敷、玄関ドアの前。


「・・・」

「ローズ・・・」

「お帰り、司」

「あ、あぁ・・・」


 其処にはローズが2人の子供達を抱き、待ち構えていたのだった。

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