第192話


「あんらぁ、本当に倒したんだね」

「んんん⁈あ、あぁ・・・」

「あたしも長生きしてるけど、神龍を狩った人族は初めて見たよ」

「そうか・・・」

「うむ、流石我が名付け親だな」


 梵天丸に連れられて現れたジェアン。

 彼女は俺がスヴュートを倒した事に驚いた様子だったが、俺は現れた彼女に驚いた。


(分かっていた事だが、デカイなぁ・・・)


 ジェアンは立ち上がると、俺が5人分位の高さがあり、其の身長は約8メートル程だと思われた。


「長さん。悪いのだけれど、邪魔よ」

「ああ、すまないね。影になったかい」

「ええ、繊細な作業なのよ。お願い」

「分かったよ」


 ジェアンの巨体の生み出す影は、フェルトの解体作業の邪魔になったらしく、苦情が飛んで来てジェアンは移動するのだった。


「そういえば、スヴュートの魔石だけど・・・」

「あぁ、安心してくれ。俺達の目的は神龍の血管だし、そもそも此処に来るのを助けてくれた奴に、魔石は置いたままにすると約束したからな」

「へえ〜、何て言うんだい?」

「あぁ、ラプラスって言う魔人だよ」

「ラプラスッ。あの悪ガキ、今何処に居るんだい?」

「え〜と・・・、リアタフテ領って分かるかな?此処からかなり北に行った所にあるんだけど」

「ああ、分かるよ」

「そうか。其処に最近ダンジョンが出来て、其の最深部に居るよ」

「そうかい。元気でやってるかい?」

「そうだな、まぁ、呑んだくれてるよ」

「はあ〜、あの子はホントに・・・」

「知り合いなのか?」

「まあね。前回も、前々回も此処で会ったからね」

「・・・前々回?それって・・・?」

「そうさね、100は数えた筈さね」

「100って・・・、ジェアン、お前一体何さ・・・」

「お待ちよ」

「えっ?」

「レディに歳を聞くもんじゃ無いよ」

「・・・」


 レディねぇ・・・。

 俺は面倒なので流す事にしたのだった。


「でも、私もそろそろ後継者を決めないとね」

「後継者?」

「そうさね、還る日が近づいているんだよ」

「・・・」

「ふふ、まあ、私は永かった方さね」

「そうなのか?」

「見てみなよ」

「其れは・・・」


 そう言って、ジェアンが背中を見せて来ると、其処には其の巨体に見合った魔石が存在していた。


「デカイなぁ・・・」

「そうさね、あたしは巨人族と魔族のハーフだからね」

「巨人族・・・」

「北の果ての大地に住む一族さね」

「如何して、此処に来たんだ?」

「・・・一族を追われたのさ」

「な・・・」

「ふふ、理由は聞くんじゃないよっ」

「・・・っ、・・・そうか」

「ふふ。良い子だね、司」

「・・・」


 ジェアンは俺を子供扱いしつつも、其の視線は遥か遠く、北に向いているのだった。


「ふう〜・・・、終わったわよ」

「そうかっ」

「ええ、予備も含めて、1人分の必要量位は取れたわ」

「良し、すぐ戻ろう」

「ふふ、せっか・・・、っ⁈ちょ・・・」


 作業の終了を告げて来た、フェルトの手を取る俺。

 フェルトは虚を突かれたらしく、珍しく驚いた表情を浮かべたが、俺は構わずアイテムポーチに手を伸ばした。


「あれ?え⁈・・・何でっ⁈」

「・・・」

「ま、不味い・・・」

「何をしているのかしら?」

「いや、転移の護符が無いんだっ」

「・・・」

「どうしよう。此れじゃあ間に合わ・・・」

「はい」

「え?何で・・・」

「はあ〜、司がさっき渡したでしょう、私に」

「・・・」

「・・・」

「そうだった‼︎」

「・・・ふう〜」


 驚きの表情から一転、呆れた表情で溜息を吐くフェルトから護符を受け取った俺は、すぐに護符へと魔力を込め始めた。


「じゃあ、梵天丸、ジェアン、俺達戻るよ」

「う、うむ、また逢おう」

「ふふ、慌ただしい子達だね」

「じゃあな」


 俺が梵天丸とジェアンに別れの挨拶をした次の瞬間には、ここ最近では見慣れたダンジョン最深部へと戻っていた。


「・・・戻ったか?」

「あぁ、ラプラス」

「成果は・・・?」

「勿論、仕留めたよ」

「・・・くくく、そうかっ」

「あぁ、世話になっ・・・」

「行けっ‼︎」

「・・・っ」

「・・・急げ」

「あぁ‼︎」


 ラプラスは俺から成果を聞くと、背を向け自ら会話を拒否する姿勢を見せ、俺達を急かして来た。

 俺は其れに応える様に、心の中で礼を述べ帰還の護符で地上に出て、フェルトを抱えてリアタフテ家の屋敷へと飛ぶのだった。


「着いたっ。フェルト、すぐに手術を頼めるか?」

「ふふ、当然でしょう。その為に私はルーナを後回しにして来たのだから」

「そうか、助かる。じゃあ・・・」

「ふふ、待ちなさい」

「え?」


 フェルトから執刀の了承を得て、俺はすぐに屋敷へと向かおうとすると、背に声が掛かった。


「司、貴方は研究室に行って」

「何か必要な物が有るのか?」

「いいえ」

「じゃあ・・・」

「ふふ、執刀医は私よ。私の言う事に従って貰うわ」

「何で?」

「ルーナが1人で居るわ」

「そうだけ・・・」

「あの娘は、貴方の子を助ける為に傷を負ったのよ。貴方にはあの娘の側にいる義務があるわ」

「・・・っ」


 何時もと同じ表情と口調で、然し其の瞳の奥には凍てつく様な冷酷さと、発する声の底には烈火の様な熱が感じられた。


「ふふ、分かったでしょう」

「・・・あぁ」


(分かったよ、お前が族に対してどの位怒りを抱いているか・・・)


 俺は此れ以上、フェルトの機嫌を悪くする事は望まず、学院の方角へと踏み出した。


「頼んだぞ、フェルト」

「ふふ、ええ」


 屋敷へと向かうフェルトに背を向け、俺は学院へと飛び立つのだった。


 既に日付は変わって早朝となり、学院の廊下は微かに明るかった。


「ルーナ」

「司様っ。良かった、ご無事だったのですね」

「あぁ、何とかな」

「目当ての品は?」

「手に入れたよ」

「そうですか、良かった」


 ルーナは昨晩来た時と同じ様に、管が繋がれた痛々しい姿のままだった。


「ルーナ、すまなかった」

「・・・司様」

「痛かっただろう・・・」

「司様、ルーナは人ぎょ・・・、んっ」

「・・・」


 ルーナに最後迄言わせず、其の唇に自身の其れを重ねて塞いだ。


「司様・・・」

「ルーナ」

「ふふ、お疲れ様でした」

「お、動いて・・・」

「大丈夫ですよ」

「・・・」


 ルーナは管の繋がれた腕で俺の頭を抱え、自身の膝へと置いた。

 俺は其の暖かさに、一気に睡魔に襲われるのだった。


(そういえば、傷薬や魔力回復薬じゃ、疲れ迄は取れないからなぁ)


「ふふ、おやすなさい。司様」

「・・・あぁ、おやすみルーナ」


 俺はそうしてルーナの膝の上。

 背中に朝陽を浴びながら、深い眠り落ちるのだった。

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