第188話


「此処に居るのは・・・?」


 俺は聞きたい事を途中迄口にし、其の先の言葉に窮してしまった。

 最初、俺が言いたかったのは、喋る魔物ばかりなのかという言葉だったが、眼前に居るジェアンは巨人では有るが、魔物には見えなかった為だ。


「良いさね、気にする事無いよ」

「あ、あぁ・・・」

「そうさね、想像通りだよ、あたし以外はね。ただ、現在はだけれどね」


 ジェアンに正確に俺の質問が想定出来ているのか疑問だったが、発言の内容は俺の聞きたかった事の答えの様だった。

 ただ、現在と答えるという事は、過去には魔物以外も居たのか、新たな疑問が湧いて来た。


「過去にはどんな種族が居たのかしら?」

「そうさね、あたしが知る限りでは、亜人と魔族のハーフが殆どで、例外も・・・、まあ居るよ」

「例外って?」

「まあ、魔人だったり、亜人が多いさね。珍しいところで人族も。でもあんた達が来たから、2人も一辺に増えたよ」


 そう言ってジェアンは、其の体型に相応しく、豪快に笑ったのだった。


(人族っていう事は、冒険者か何かかなぁ)


「ふふ、不思議な話ね」

「え?何がだ?」

「・・・さっき、長さんが、此処に居るのは人族が好きで無い者が多いって言ってたでしょう?」

「あっ・・・。過去に居た人族はどう生活していたんだ?」

「そうさね。ただ、こんな所に来る人族は変わり者が多いし、あまり気にする風では無かったよ」

「なるほど・・・」


 こんな所と言ったジェアンの言葉に、俺は何となく納得してしまうのだった。


「ふふ、本当かしら・・・?」

「そう、疑うもんじゃ無いよ」

「ふふ」

「・・・」

「ねえ、長さん?」

「ふう〜、困った子だねえ」

「ふふ、褒められてしまったわね」

「ただ、嘘は言って無いよ。かなり特殊だけど人族で有るのは確かだし、それに此処に再訪する物好きは1人だけだしね」

「再訪っ⁈」

「そうさね。正確には旅と旅の合間に滞在するのだけどね」

「・・・」


 かつてブラートに此処の説明を受けた時は、ザヴィッツシャーニイ山脈を越えて戻った者は居ないと聞いていたのだが・・・。


(まぁ、其の事を秘匿していれば、居ないも同然なのだろう)


 ただ、そうなると気になるのは、其れを秘匿する理由だが・・・。


「そうさね。あんた達もあまり此処で見た物を、外の世界で触れ回って欲しくないね」

「別に構わないさ。俺の目的はスヴュートのみだっ」

「ふふ、そうねえ・・・」

「・・・フェルト」

「ふふ。まあ、構わない・・・、かしら?」

「・・・」

「助かるよ」


 一体、此の終末の大峡谷に何が有るのかは分からないが、俺はそろそろスヴュートへと案内して貰う事にした。


「良いか、梵天丸」

「うむ。では行こうか」

「しっかり、やるんだよ」


 こうして、俺達はジェアンからの見送りを受けて、洞窟から出て行った。


「此方だ、ついて来てくれ」

「あぁ」


 梵天丸は崖沿いを山脈とは逆方向へと、俺達を案内した。

 一時、俺達の進行方向へと徐々に崖と崖との距離が狭まって行き、再び開いて行くと・・・。


「お、おぉ・・・」

「ふふ、此れは壮観ねえ」


 前方の視界が完全に開け、其処には海と其の手前には、色彩豊かで絢爛豪華な魔石の大地が広がっていた。


「此れって・・・」

「墓標だな・・・」

「え⁈っ、そうかぁ・・・」


 梵天丸が告げて来た墓標と言う言葉に、俺は此の大峡谷の事が理解出来た。


(という事は、梵天丸も・・・)


「気にする必要は無い」

「・・・そうか」

「其れに、我はまだまだ未熟者だからな」

「・・・」

「それよりも、見てみると良い」


 そう言って梵天丸の指し示した先、上空へと視線を向けると・・・。


「彼奴が・・・?」

「うむ、光の神龍スヴュートだ」


 其処には、全長50メートル程の白竜が漂っているのだった。

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