第189話


「此奴は・・・」

「ふふ、どう?」

「・・・」


 悪戯っぽく問い掛けて来るフェルト。

 俺は正直なところ、これ程巨大なドラゴンを想像して無かったが、とりあえず戦場となる周辺を見回した。


(大地は魔石が広がって・・・、ん?あれは?)


 魔石の大地には一本の剣が突き刺さっていた。


(まぁ、良いか・・・。後は・・・、眼前には海、後方は崖か・・・)


 もう一度上空のスヴュートへと視線を移すが、奴は此方を気にする風は無く、自身の庭とばかりに蒼穹を悠然と漂っていた。


「此の様子は・・・、梵天丸」

「うむ、何だ?」

「スヴュートから襲われた事は有るか?」

「いや、無いな」

「彼奴が地上に近づく事は?」

「う〜ん、精々上空20メートル位かな」

「そうか・・・」


 とりあえず、戦闘は空中戦になるとして、攻撃手段は多く無い。


(おまけにあの巨体か・・・)


 あのサイズの敵を縫で止めた事は無い為、過度の期待をするべきでは無いだろうし、龍神結界・遠呂智は奴を消し炭に出来るとは思えないが、一応使用は控えた方が良いだろう。


(そうなると・・・、あれかぁ)


 俺は一つの魔法を思い浮かべ、覚悟を決めた。


「梵天丸、あの剣は?」

「ああ、あれは先日此処に来た冒険者の物だ」

「へぇ、その人は今何処に?」

「うむ、大地へと還った」

「え?」

「司と同じ様にスヴュートを狩ろうとしてな。一撃だったな」

「・・・」

「ふふ、安心しなさい司」

「何がだ?」

「遺骨はちゃんと、ルーナとリアタフテに持って帰ってあげるから」

「・・・ありがとよ」


 そう応えた俺に、フェルトは転移の護符を求めて来た。


(・・・冗談では無かったんだな)


 ただ、万が一の時の事も考えて、大人しくフェルトに転移の護符を渡し、地面に刺さる剣へと歩いた。


(うん、しっかりした作りだし、素材は軽い。なかなかの業物だな)


「それ、使うの?」

「あぁ」

「大丈夫なの?」

「問題無いさ。此れを其のまま使って斬れるとは思って無いしな」

「じゃあ、どうするつもり?」

「あぁ・・・。叛逆者の証たる常闇の装束・・・、装っ」


 足下に現れた魔法陣から這い出た影が、身体を包み込み闇の衣へと変化し、詠唱により手にした剣に闇が付加された。


「へえ〜・・・、そんな使い方も有るのね」

「あぁ、2人共退がっていてくれ」

「うむ、了解した」

「ふふ、司」

「何だ?」

「ルーナが帰りを待って居るのだから、無茶はしないでよ」

「・・・分かってるよ」

「・・・はあ〜」


 俺はフェルトに応えつつも、其の心は無茶だろうとやると決めていたし、其れが伝わったのかフェルトは溜息を吐きながら退がって行った。


「良し・・・、翼‼︎」


 俺の背に闇の翼が広がる。


「縫っ‼︎」


 俺は地面に描かれるスヴュートの影へと、闇の針を飛ばすと同時に翼に力を込め空へと飛んだ。


(効いたか⁈)


 先程迄、悠然と空を漂っていたスヴュートが、一瞬其の巨体を固めた事に、此の機を逃すまいと純白の巨体へと斬撃を放とうとした・・・、刹那。


「くっ⁈」

「グッ・・・、ガアァァァーーー‼︎」

「ちっ‼︎」


 スヴュートが其の身を固めていたのは本当に一瞬だけで、闇を纏った剣の斬撃が届く直前に、縫の効果が切れて、其の尾を払って来た。

 間一髪、寸前で其れを躱した俺だったが、其の巨体に似合わずかなりの速度で動いた尾により、躱し切った俺へと突風が襲って来た。


「くうぅぅぅ‼︎」

「・・・」

「この野郎・・・」


 俺を見据えて来るスヴュート。

 其の表情?は、不思議な程に余裕を感じるものだった。

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