第173話


「何時だ⁈」

「少し前です。私とアナスタシア様で喰い止め様としたのですが、逃してしまいました」

「アナスタシアと・・・?他は?屋敷の人間はやられたのか?」

「アナスタシア様は私の状況を見て司様とローズ様に報告する様にと言い、自身は族を追いかけて・・・。屋敷の方々は多分司様と同じ様に眠っているかと・・・」

「・・・っ」


 どういう事だ・・・?

 目的を含め色々と不明な事も多かったが、何時屋敷の人間達を眠らせたのか?

 それに何より疑問なのが、アナスタシアとルーナが居て逃げきれる程の実力を持った族だという事だった。


(そんな存在がこのタイミングを狙っていたのに気付けないとは・・・)


「分かった、ルーナはローズとリール様に連絡に行ってくれっ」

「司様は?」

「族を追うに決まっているだろっ‼︎」

「・・・っ、はいっ」


 ルーナ曰く、族はアナスタシアの追撃を逃れながら、リエース大森林の方角へと逃げて行ったらしかった。


「頼んだぞ、ルーナ‼︎」

「えっ、司様・・・⁈」


 ルーナへと背中で叫びながら、窓へと走る俺。

 窓を撥ね飛ばす勢いで開け、外へと飛び出した。


「叛逆者の証たる常闇の装束‼︎・・・翼ーーー‼︎」


 俺の詠唱と共に、夜の闇に溶け込んでしまいそうな漆黒の衣が、此の身を包み込み、背からは鴉を思わせる月明かりに映える翼が現れた。


「・・・っ‼︎」


 リエース大森林。

 族の向かったという方角へと飛び出した俺の背に、屋敷のルーナから何か声が掛かった。


(悪いなルーナ・・・)


 ルーナが何と言ったかは、耳を打ち付ける夜風の風切り音に掻き消されて分からなかった。

 リエース大森林に向かい空を飛んで行く俺。

 視界に捉えた大森林跡は、此の距離ではまだただの焼け野原にしか見えなかった。


「あの先となると海しか見えないが・・・」


 広大な大森林跡の先には海が見えていた。


(でも船は浮かんでいないしな)


 俺はルーナから聞いた、族が子供達を攫ってからの時間を考えるとまだ遠くには逃げれていないだろう。

 俺は其れを自身に言い聞かせる様にし、魔眼を開いた。


(若干だけど此の状態の方が、扱いが楽に感じるんだよな)


 一つ立てた仮定は大魔導辞典に記した魔法は、創造種が使用する事が想定されてるのではないかという事だった。


「・・・っ⁈」


 そんな事を考えながら空を飛んでいた俺の横に神木が現れていた。


(ちっ、馬鹿みたいに育ちやがって・・・)


 そんな風に苛立ちを神木に打つける俺に、当然の返答は返って来ないのだった。


「・・・」


 そして辿り着いた大森林跡上空。

 地上には明らかにアナスタシアでは無い人影が、十数人程見えた。

 其の出で立ちは、白一色の深めのフードとマントで全身を覆っていた。


「おいっ‼︎お前達は何者だっ‼︎」

「・・・」

「答えろ‼︎」

「・・・」


 俺からの問い掛けは聴こえているのだろう。

 其の証拠にフードに覆われ顔は確認出来なかったが、明らかに視線は俺へと向けられていた。


「・・・そうか、答えてくれないか」

「・・・」

「残念だよ、でも仕方ないか・・・」

「・・・」


 俺は意味は無さそうだが、族と思われる連中に語り掛けた。


(・・・子供達を連れて居ないのは確かだな)


 アナスタシアも見当たらない事を考えると、もしかしたら追い越したのか?

 そんな考えも頭を過ったが、今は此奴ら仕留める事にした。

 何故なら・・・。


「何だ、やる気じゃないか?」

「・・・」

「詠唱を始めるなんて・・・、なっ‼︎」

「・・・」


 俺の眼下の連中は此方の質問には答える事は無く、短縮詠唱を始めた。


「波‼︎」

「・・・」


 一斉に俺へと襲い掛かる火炎の球に、迎撃の漆黒の波を放つ。

 夜の闇を裂くかの様に飛んで来る深紅の球体を、闇へと帰すかの様に飲み込んだ漆黒の波。


「今度はこっちから行くぞっ、剣‼︎」

「・・・」


 空一面に広がる無数の漆黒の剣。


「行けえぇぇぇ‼︎」

「・・・」


 俺の咆哮に従い族に襲い掛かる剣の豪雨に、次々と其の身を貫かれていく族達。

 だが、そんな状況にも連中は決して取り乱す事は無く、淡々と倒れていった。


「・・・終わりか」


 眼下の族達が全て倒れたのを確認し、辺りに目を凝らしたが子供達もアナスタシアも見つける事は出来なかった。


(降りてみるしかないか・・・)


 俺は戦闘になった場合のアドバンテージを失いたくなかったが、空中からでは新たな情報を得る事は出来ないと思い、地上へと降りて行った。


(此奴ら・・・、何者だ?)


 地上へと降り立った俺は、自身の1番近くにあった族の亡骸へと寄って行き、其の顔を覆ったフードに手を掛けた・・・。


「・・・なっ⁈」


 俺が族のフードに手を掛けたのと同時に、俺の真横へと何かが空から降って来て、俺は其方へと視線を向けた。


「・・・っ⁈アナスタシアか・・・?」

「・・・ぐうぅぅぅ」


 視線の先には衣類はボロボロに裂け、其の裂け目からは無数の傷が覗き、其の白い肌を鮮血で染めたアナスタシアと思われる人物が倒れていた。


「ど、どういう事だ・・・?」

「うぅぅぅ、司・・・、様?」

「大丈夫かっ、アナスタシア‼︎」

「大丈夫・・・、です」


 俺の問い掛けに答えるところを見ると、アナスタシアで間違い無いらしいが・・・。

 何故、俺が其の人物がアナスタシアなのか疑問視したかというと・・・。


(どういう事だ?何故でこと背中にあんな物が・・・?)


 俺の視線の先のアナスタシア。

 其のでこには初めて見る角が生えており、其の背には・・・。


「魔石・・・?」


 アナスタシアの背には真紅の魔石が、夜の闇の中で、激しく輝きを放っていたのだった。

 

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