第164話

164話

「・・・」

「くくく、どうした?我に恐れをなしたか?」

「いや・・・。色々聞きたい事も有るが、ダンジョン攻略の為にもお前を倒させて貰うよ」

「く、くく・・・、ぶっ、はっはっは」

「・・・」


 俺の宣言に最初は嘲笑で口元のみの笑っていたラプラス。

 だが、余程可笑しかったのか、直ぐに吹き出し見下す様な表情で高笑いに変わった。


「倒す?我を?・・・くく、面白いっ。やって見せてみろ‼︎」

「・・・言われ無くてもやるさっ‼︎行くぞっ・・・、『ウンダ』‼︎」


 俺が闇の衣を纏った腕を払うと、其処から漆黒の波が発生し、ラプラスへと放たれた。


「むっ」

「行けぇ‼︎」


 詠唱も行われず発生した魔法に虚を突かれたラプラスだったが、其れも一瞬。

 直ぐに3連無詠唱でボール程の光体の球体を生み出し、波を迎撃した。


「ハアァァァ‼︎」

「・・・くっ」


 波と球体が衝突すると、其の衝撃は中心点から空間全体を覆い、天井や壁は剥がれて崩れ落ちそうな程に、地面はそのまま地の底迄沈んでゆくかの様に揺れ、鳴り響く轟音は仲間達が上げた悲鳴を全て飲み込んだ。


「くくく、どうした?もう終わりか?」

「・・・ちっ」

「なら、此方から行くぞっ」


 再び無詠唱で先程の魔法を放ったラプラス。


(此れは・・・、躱すだけでは駄目だ‼︎)


 自身へと向かって来る球体に、俺は其の場から駆けた。

 俺の居た位置に着弾した魔法は、其の周囲に激しい爆発を齎した。


「ふぅ〜」

「くく、勘の良い奴」

「・・・」


(・・・爆破系?とにかく効果範囲は周囲だな)


「考え事か?」

「・・・っ」

「オラァ‼︎」


 一瞬の間で俺の眼前へと踏み込んでいたラプラス。

 其の左の二の腕を俺へと振り抜こうとしたが・・・。


「『テクストゥム』‼︎」

「な⁈」


 振りかぶった腕に闇の衣が巻きつき、動きが止まってしまった。


「くっ・・・、面倒なっ」

「行くぞっ‼︎」

「ちっ」


 此の機を逃す訳にはいかない。

 そう確信し、ネックレスに触れ剣へと変化させ、ラプラスへと振り下ろした。


「な、何⁈」

「くくく・・・、くく、ひ弱なっ」


 剣はラプラスの肩口で止まり、其の血の色を見る事は叶わなかった。


「・・・」

「くく、どうした・・・?」

「『インドゥオー』‼︎」

「・・・っ」


 俺の声に呼応する様に、再び振り上げた剣の刃に闇が纏われる。


「はあぁぁぁ‼︎」

「くそ・・・、がっ‼︎」

「・・・っ」


 振り下ろした刃は宙を斬り、ラプラスの立っていた地面を斬り裂いた。


(彼奴・・・、自ら左腕を千切りやがった‼︎)


 二つに分かれるラプラスの身体と左腕。

 ラプラスは自ら捕らわれていた左腕を捨て、バックステップで俺の斬撃を躱したのだった。

 捨てられた左手の指は不気味に蠢いていた。


「其れは喰わんっ」

「ちっ・・・」

「くく、流石我。抜群の読みよっ」


 自身の立っていた地面の裂け方を見て、自画自賛をするラプラス。


「まだだ‼︎」

「むっ」

「『アールーキナーティオ』‼︎」

「・・・くく」


 纏いし闇が広がり、複数の人の形を形成していき、完成したのは俺と同じ姿だった。


「下らんなっ、興醒めしたぞ」

「何がだ?」

「貴様本体が見えているのに目眩しとは・・・、無駄っ‼︎」

「・・・」


 苛立ちを打つける様に地を蹴り、俺へと跳ぼうとしたラプラス。

 其処を側面から突いたのは、俺の生み出した幻影だった。


「まやかしがっ」

「・・・」

「ちっ」


 振り抜いたラプラスの拳は幻影を擦り抜け、空気を裂く音が此方まで聞こえてきた。


「ほぉ〜」

「・・・大物振りか?」

「さぁて・・・」

「・・・小僧がっ」


 再び俺へと向かおうとするラプラスを、今度は別の幻影が襲い掛かった。


「・・・ふんっ」

「・・・」


 今度は其れを無視し駆け様としたラプラス。

 然し・・・。


「・・・っ⁉︎」

「・・・ちっ‼︎」


 ラプラスに向かい幻影が手にした剣を振り下ろすと、何か勘付いたのか間一髪横に跳ぶラプラス。

 僅かに届かなかった幻影の剣は、地面に突き刺さってしまった。


「コ、コノォーーー‼︎」

「・・・っ」

「消えろ‼︎」


 刺さった剣に足を止めてしまった幻影。

 ラプラスによって放たれた魔法の衝撃で掻き消されてしまった。


「面倒だっ‼︎」

「・・・な、何⁈」


 残っていた右手を地面に突けんばかりに前傾姿勢になり力を込めるラプラス。

 すると僅かに見えていた背中の筋が蠢き、其処から翼が生えてきた。


「ハァッ‼︎」


 空間の天井近く迄飛び、無詠唱で魔法陣を描いたラプラス。

 其処から生み出された、魔法で俺の生み出した幻影は全て掻き消されてしまった。


「く、くく・・・、くはは。見たかっ」

「ちっ・・・」

「次は貴様だっ‼︎」

「・・・っ」


 無詠唱で描かれる7つの魔法陣。

 其処から生み出された魔法の球体は一斉に俺へと襲い掛かった。


「終わりだ‼︎」

「深淵より這い出でし冥闇の霧‼︎」

「な、何だと・・・?」


 ラプラスの放った魔法は、俺の生み出した魔法から這い出た霧に飲み込まれて行った。


「ちっ・・・、味な真似を」

「ふぅ〜」


(正直、危なかったなぁ・・・。其れに・・・)


 俺はとりあえずの危機を脱し一安心したが、体力と魔力の消費を感じていた。


(魔力回復薬を飲んでも良いが、あまり敵に弱みを見せたくないな・・・)


 俺は左腕を失っても依然として暴れるラプラスに、自身の消耗を気付かれるのを嫌った。


(あれを使うか・・・)


 未だ制御の完全で無い此の魔法の中でも、特に扱いの難しい術を意識し、俺は皆へ指示を飛ばした。


「ルーナッ」

「・・・はいっ、司様」

「ルチルはどうだ?」

「まだ、気を失ったままです」

「・・・」

「司様?」

「皆んなで直ぐに通路迄退がるんだ‼︎」

「・・・え?司様は?」

「良いから早く‼︎」

「・・・っ」

「退がったらミニョンのロックシールドで完全に通路を塞いでくれ‼︎」

「・・・でもっ」

「早くするんだ‼︎」

「・・・はいっ」


 皆が通路迄退がり、岩の壁が此方と彼方を遮断するのを確認した俺。


「そんな事をせずとも、我は女に手を上げたりはせん」

「・・・良く言うよ」

「くく、信用が無いな」

「当然だろ?」


 悪びれずそんな事を言うラプラスに、俺は呆れ気味に応えた。


(そもそも、いの一番にルチルにラリアットを喰らわしてるしな)


「まあ、良い」

「・・・」

「そろそろ、本当に終わらせるとしよう」

「来るかっ⁈」

「くく、受けてみよっ」


 空中で構えをとり俺を見据えたラプラス。

 其の悠然とした動きが、一瞬を永遠に感じさせた。


「ハアァァァ‼︎」

「・・・」

「貰ったっ‼︎」

「『アーラ』‼︎」

「・・・っ」


 俺の下へ、極限まで引き絞られた弓から放たれた矢の様に一直線に飛んで来たラプラス。

 俺は自身の鼻先、髪一本の距離迄ラプラスの拳を引きつけ、闇を翼へと形成し空へ飛んだ。


「何だとぉ‼︎」

「行くぞっ、『プルウィア』」

「・・・っ」


 空間の天井一面に広がった闇の雲から雨が降る。

 其の雨を浴びたラプラスは、其の全身に擦り傷を負った。


「・・・何だ?」

「・・・」

「ちっ、また下らん真似か?」

「どうかな?『ネブラ』‼︎」


 地面を打っていた漆黒の雨は、霧へと化し空間中を包む。


「な、何だ?身体が・・・、くっ」

「・・・」


(良しっ、成功だな)


 空間を包む霧に触れると、徐々に俺の体力と魔力が回復していくのを感じられた。


(まだ、敵と仲間の区別は難しいからな・・・)


 俺は岩の盾で遮断された通路に目を向け、此の魔法の欠点の解消を誓うのだった。


「次で終わりだっ」

「・・・ちっ」

「『グラディウス』‼︎」


 俺は宙に無数の剣を生み出し、ラプラスに狙いを定めた。


「行けえぇぇぇ‼︎」

「・・・っ」


 空へ逃げようとしたラプラスの翼を捉え、其の羽ばたきを止める闇の剣。


「装‼︎」

「ちっ・・・‼︎」


 俺は手にした剣に闇を纏わせ、闇の翼に力を込める。

 最大限迄溜めた力を発しラプラスへと飛ぶ俺。

 翼の、そして全身の力を全て剣に乗せ降り下ろす。


「喰らえーーー‼︎」

「・・・っ」


 ラプラスは自身の一本残った右腕差し出す様にし、翼を捨て背後に飛んだ。


「ちっ・・・、届けっ‼︎」


 ラプラスの右腕と打つかった剣は、僅かに速度を落とし・・・、奴の身体を捉える事は出来なかった。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・、くそっ」

「・・・ふぅ〜」

「まだっ‼︎」

「ま、待てっ‼︎」

「・・・っ」

「参った‼︎」

「・・・」


 地面に倒れた両腕を失ったラプラス。

 其の口から飛び出したのは、降参宣言だった。

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