第160話
ローズへと事情を説明し、ディアを呼びに向かった俺だったが、ディアは最初同行を渋り、説得に時間が掛かってしまった。
(もし、俺が目を離した隙に動きがあると、処分に困るからな・・・)
ディアはその事を仄めかすと、渋々納得し俺について来たのだった。
「悪いな、ディア」
「むう〜」
「でも、心配にならないのか?」
「・・・良いっ」
「・・・」
「あたしはすてられたんだもんっ」
「そうかぁ・・・」
「んっ」
馬上で俺の前に幼児形態で座っているディア。
俺からの質問に答える雰囲気からは、ミラーシへの心配は感じられなかった。
俺達が神木の下に着くと、バドーは10人程の兵士達と待っていた。
「若頭、ご足労ありがとうございます」
「いえ、お待たせしました」
「早速移動して大丈夫っすか?」
「ええ、行きましょう」
そうして、リエース大森林へと移動を開始する俺達。
到着すると其処は既に焼け野原と化し、真冬でも深緑に染まっていた光景は無かった。
「・・・此れは」
「・・・」
呟いた後、続く音を発せられない俺。
其れとは対照的にディアは、ただ無音で其の光景を眺めていた。
「どうすっかね、ミラーシへの道は見えますか?」
「・・・すいません。ちょっと待って下さい」
「いえ、此方こそ」
バドーから問い掛けに、集中を増し辺りに目を凝らしてみるが、以前は見えた誘う道が見つかる事は無かった。
「すいません。見当たらないですね」
「そうっすか」
「・・・ディア」
「なに?」
「ディアには見えないかな?」
「ちゅかさにみえないなら、あたしにみえるわけないでしょ?」
「・・・いや」
一縷の望みを掛けた問い掛けに、素気無い返答のディア。
この中で一番、ミラーシとの関わりが深い彼女に期待するのは当たり前だろうと思ったが、そんな俺の心を読んだのか、彼女なりの分析を返してきた。
「はぁ〜・・・。いま、さとのれんちゅうはちゅかさより、あたしにもどってほしくないの」
「・・・」
「つまり、けいかいどはちゅかさにたいしてのほうがゆるいの」
「あ、あぁ・・・」
「なら、さとへのみちはちゅかさのほうがみつけやすいのっ」
「・・・でも、それだと、里の者達が迷ったりしたらどうなるんだ?」
「それは、ひつようないからきりすてられたでおわり」
「・・・そうかぁ」
切り捨てられた。
自身の事もある為、厳しい言葉を選んでいるのか・・・。
仲間が奴隷にされた時の復讐の話から、かなり仲間意識が高い種族だと思っていたのだが、結構冷めているんだな・・・。
「何か狙われる相手に覚えは有るか?」
「ありすぎる」
「例えば?」
「せかいじゅうのどれいしょうと、やとわれたぞくやぼうけんしゃ」
「・・・」
「あたしたちはうつくしいから、いろんなよくをみたすのにさいこうのそんざい」
「・・・そうか」
奴隷にされれば自ら命を絶つ為、命懸けで攫う価値は無い様に感じるけど、其れは普通の感覚なのだろう。
富や名声を手に入れた人間にしてみれば、狐の獣人を手に入れたり、一晩でも自由に出来れば其れは歪んでいるが、最高の名誉となる・・・、そうディアは続けた。
「全滅したのかな?」
「それはちがうとおもう」
「え?」
「ほかのさとへのれんらくはひつようだから、にげのびたものはいるはず」
「何処に有るんだ?」
「・・・」
「ディア?」
「こたえないっ。どうせいかないしっ」
「う〜ん・・・」
俺は困った表情でバドーに視線を向けると、その答えは構わないというものだった。
「領内なら出来れば教えて欲しいっすけど、領外だと何も出来ませんので」
「そうですか」
「其れに此処も捜査は明日迄ですし」
「そうなのですか?」
「ええ。明後日には王都から、ヴィエーラ教の人達が捜査しに来るっす」
「なるほど」
そういえばリエース大森林はヴィエーラ教の管理地だったな。
その後、小一時間程バドー達に付き合ったが、成果は得られないまま屋敷へと戻るのだった。
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