第154話


 ブラートと会った翌日、俺は1人学院へと来ていた。

 まだ春休み中の為、教師や一部の熱心に活動するクラブ関係者しか居ないので、学院の廊下は実に静かなものだった。

 静寂の中を進み辿り着いた目的地は、ザックシール研究室。

 ドアをノックすると中から返事がして俺は入室した。


「司様、お久し振りです」

「ああ、ルーナ。と言っても一昨日振りだがな」

「ええ、でも久し振りです」

「・・・そうだな」

「ふふ、ルーナには甘々ね」

「フェルト・・・」

「マスター・・・。司様はルーナに対して、優しくなんか無いですよ」

「・・・」

「ふふ、そうかしら」


 俺とルーナのやり取りに、安全地帯から加わりながら横槍を入れてくるフェルトは、ルーナのツッコミに返す言葉の無くなった俺を、面白そうに笑うのだった。


「ふふ、それで今日は?ルーナを迎えに来たの?」

「ああ、休みも終わるしな」

「あら、そうだったかしら?」

「・・・あぁ、そうだよ」

「ふふ」

「はぁ〜・・・」


 此処、ザックシール研究室は完全にフェルトとルーナのホームで、アウェーの俺は精々、態とらしく溜息を吐く事しか出来無かった。


「そう言えば、頼んでた物は・・・」

「ええ、出来てるわ。ルーナの手首を見て」

「え?・・・ブレスレット?」

「一応、アイテムポーチの一種よ。ルーナ」

「了解です、マスター」


 フェルトの呼び掛けにルーナは掌を広げて、何かを念じるかの様に其処に視線を集中した。

 するとブレスレットが淡く光り其処から、意匠の技を凝らし、きめ細かい肌をもつ掌に釣り合いの取れた、エレガンスなフォルムに、風雅な装飾の施された拳銃が現れた。


「そ、其れは・・・」

「どうかしら?」

「あ、あぁ、良い‼︎良いよっ、フェルト‼︎」

「ふふ、本当に子供みたいね」

「いやぁ、でも本当に良い感じだ」

「ふふ、ありがとう」


 そうして、俺達は新兵器の試し撃ちをする為、武道場へと移動した。

 其処には良く知る2人の先客がいた。


「あら、司さん。どうしたんですの?」

「ミニョン・・・、それにフレーシュ」

「お久し振りです、司様」

「ああ、久し振り」

「ふふ」

「何ですか、フェルト様」

「いえ、司様ねぇ・・・」

「・・・っ」

「ルーナ」

「はい、マスター」

「注意した方が良いわよ?」

「・・・」

「少し重なる所があるから」

「・・・っ、フェルト」

「全く似ていないと思います」

「ふふ、そうかしら?」

「・・・むっ」

「ふふ・・・」

「どうしたんですの???」


 フレーシュの変化に気づいたフェルト。

 他人に興味が無さそうに見えるのに、良く見ている事だ。

 焚き付けられたルーナは、美しい顔を子供がする様なムッとした表情に変えていた。


(ただ、ミニョンは相変わらず気がついて無いのは助かるけど・・・)


 そんなミニョンとフレーシュに、俺は武道場へと来た理由を説明した。


「以前からの物の方が威力は有るのでしょう?」

「ああ、ただ、ダンジョンもそろそろ完成するだろう」

「えっ、司様はダンジョンに行かれるのですか?」

「ああ、そのつもりだよ」

「なら、もし良ければ、私も同行させて貰えませんか?」

「フレーシュが?」

「はい」

「待って下さい。私も同行しますわ」

「ミニョンもか・・・」


 現在、俺のパーティのメンバーは俺、ルーナ、そしてディアの3人だった。


(まぁ、俺としては断る理由は無いのだが・・・)


「とりあえず、ローズに確認してみるよ」

「むぅですわ」

「・・・」

「返事は後日で大丈夫か?」

「分かりましたわ」

「はい」


 2人からの納得を得て俺は一安心した。


(ローズも出産を終え、ひと段落着いたら合流するつもりの様だからな)


 俺達はその後ルーナの拳銃の試し撃ちを行った。

 仕様としては連射は出来ず、射程距離も30から50メートル迄、然し今迄の得物より魔力消費は少なくて済むそうだ。


(ダンジョンで使用する以上は、小まめな魔力供給は難しいからな)


 そうして一頻り試し撃ちを行い、俺とルーナは屋敷へと帰るのだった。

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