第84話
俺へと駆けてきたディシプル兵。
一見武器を持たず、年頃の男子としては小柄な体躯から格闘術に優れている様には見えないからだろう。
魔法の詠唱を始める前に距離を詰める事だけに集中し、無防備な構えで両手で剣を振り上げた。
「もらったぁ‼︎」
「・・・」
俺は首に掛けたネックレスに手で触れ剣へと変形させ、ディシプル兵のガラ空きとなった首を一突きした。
「っ⁈」
突然の事だったろう、悲鳴を上げる事も出来ず崩れ落ちる敵兵。
その顔に目を向けると、歳の頃は20歳を少し過ぎたくらいだろう。
(何故軍人になどなったのだ・・・?)
そんな無意味な事を心の中で問いかけた。
そんな俺の手に持つ得物には血が伝い、初めて剣で人を殺めた事を意識した。
(まあ感傷的になったり、其処に哲学的な理由を求めるつもりも無いのだが・・・)
その感触は決して気持ちの良いものでは無かった。
ただ今はそんな事すら考える間は無く、既に次のディシプル兵が此方に迫っていた。
迫る兵は3人。
連中は俺の手に突然現れた得物に、一瞬予期せぬ雷鳴を喰らった者の様に其の身を固めたが、直ぐ地面を蹴った。
「ガァァァーーー‼︎」
その雄叫びは味方をやられた怨嗟の怒りからか、将又初めて目にする不可知の技術への戦慄を振り払う為か?
先陣を切る男は野生でしか聞かぬ様な雄叫びを上げ俺へと斬りかかった。
俺は其の斬撃を剣で受け止め、直ぐ狩人達の狂想曲の詠唱を行い、背後の2人へと放った。
其々2匹の狼に挟まれ、腹と後頭部への体当たりで果ててしまったディシプル兵。
俺は足下に残るもう1匹に、鍔迫り合いの型になった男の足を喰らいつかせた。
「ガァァァーーー‼︎」
男は俺へと斬りかかって来た時と同じ音の、然し異なる様相の声を上げ膝をついた。
「森羅慟哭」
俺は其の男の頭頂部に手を向け魔法を詠唱した。
俺の手の先から魔法陣が成型され、其れが男の中へと溶け込み其の身を淡い光が包み込む。
すると男は先程迄喚き声を上げていた口から、泡を吐き無言で崩れ落ちた。
俺は此の魔法、森羅慟哭の対人への使用は学生トーナメントのローズに対して以来のことをだった。
たった2回の使用でデータと呼ぶには脆弱だが、1つの仮定にはなる。
ローズに此れを使用した時の反応と今回の反応。
ローズは魔法を喰らった後、意識が飛ぶまで絶叫の間が有ったが、此の男は即気絶した。
此の2人の差は魔流脈の強さだと俺は仮定した。
当然今回相手が負傷していた事が関係する可能性もあるが、とりあえず手に入った新たな情報に俺は喜んだ。
「さて、それじゃあ俺もそろそろ・・・」
俺は体調が戻った後、2度魔法を使用しても先程の様な疲労感を感じない事に、自身の役目を果たす事にした。
俺の此の戦いにおける役目は指揮官であり、魔法による遠距離からの攻撃だ。
「狩人達の狂想曲‼︎」
俺は足下に5匹の狼を生み出した。
(良しっ、もう大丈夫だな)
俺は自身の状態に納得し、両軍がぶつかり合う乱戦の場に向け狼達を放った。
俺は狼達に鍔迫り合いの最中のリアタフテ兵とディシプル兵の相手方を喰らわせたり、味方の背後を突こうとしている敵兵を逆に背後から突かせたり、戦場を縦横無尽に駆けさせた。
(フルバーストで此れが出来ると良いのだが・・・)
今はまだ前方に向かい放つ事しか出来ない改良型を、いつの日か自在に操れる様になろうと心に決めた。
そんな俺へと再びディシプル兵が駆けて来ようとするのが目についた。
だが・・・。
「待てっ‼︎」
戦場に響き渡る怒号が其れを止めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます