第73話
その日の晩フェーブル辺境伯とフォール将軍が明日の朝、王都に向けて発つと告げられた。
アンなどはあからさまに助かったとの態度とっていた。
「そう言えば王都までは3日位だったかな?」
「ええ。フォール将軍はディシプルに帰るのにモンターニュ山脈を越えないといけないから、冬が来て雪が降り出すと面倒なのよ」
「面倒って?」
「使える道が限られているから、其処が塞がって足止めを食らうと雪山で身動きが取れなくなる可能性もあるのよ」
「ああ、そう言う事か」
「予定が立たないと荷物も増えるしね」
ローズからの説明は、日本に居た時も雪の被害に殆ど遭わなかった俺には、そうなのか位にしか思えないものだった。
でももう少しフォールの話は聞いてみたかったな。
それから2日後の午後、珍しくアームが屋敷へと顔を出し、俺はリールから執務室へと呼び出されていた。
執務室には俺、リール、アーム、そしてアナスタシアが集まった。
なお、ローズは体調不良で部屋で休んでいた。
どうやら用件は、お客様の見送りにこのリアタフテ領を出る所まで同行した私兵団の団員がまだ戻らないとの事だった。
「まだ戻らないのぉ?」
「そうです、職務に忠実な者なので何か事故にでも遭ったのではと心配で、報告に来た次第です」
「あらぁ、じゃあ此方から誰か向かって貰いましょうかぁ?」
「そうですな、お客人の見送りについて行ったので、状況は確認すべきかと」
「わかったわぁ、人選はアームに任せるわぁ」
「はい、畏まりました」
アームは既にリアタフテ私兵団から退いていたが、その実績と人物から未だリアタフテ家やその関係者から信頼厚く、強い影響力を持っていた。
ただ未だ戻らぬ団員かぁ・・・。
本来なら昨日の夕方には戻れる距離らしいし、トラブルでは無いと良いのだがと俺は思った。
「リール様っ‼︎」
「あらぁ、アンちゃん?」
「そんなに慌ててどうしたんだ、アン?」
「はぁっ、はぁっ、ご主人様ぁ、大変にゃっ‼︎」
突如として執務室に飛び込んで来たアン。
激しく肩で息をし、問い掛けにその理由を答える事が出来なかった。
「落ち着きなさい、アン」
「はぁっ、ふ〜、ふ〜」
「飲み物を持って来ましょうか?」
「だ、だいじょうぶにゃ、ふ〜」
流石にアナスタシアはアンの様子に、ノックや屋敷を走って来たであろう事を叱責する事は無く、心配そうにしていた。
「ふ〜、にゃ〜、・・・今、来客があってそのお客が・・・」
「ん?」
お客、そうアンが言った人間は、とても客と言って良い存在では無かった。
アンがリールに確認を取り、アナスタシアと共に其の人物を執務室へと通した。
「あら、貴方は見覚えがあるわ?」
「ええ領主殿、先日は結構な歓待誠にありがとうございました」
「・・・」
既にアンから内容を聞いていた、俺達は其の人物の物言いに苛立ちを抑える事に必死になった。
「これはフォール将軍より預かった物です」
「・・・」
其の人物、ディシプル兵の懐から取り出した封書をアナスタシアは無言で受け取り、リールへと渡した。
「・・・あら、此れはどういう事かしら?」
「どういう事とは?」
「フォール将軍は正気かしらと聞いているのよ?」
「口を慎んで戴こうか?」
「あら、なら狼藉を慎んで戴きたいわ?」
リールは何時もの笑顔で、何時もと違う口調で応えた。
だが狼藉かぁ・・・。
アンから聞いてはいたが・・・。
アンの告げた客の、つまりはディシプル兵の用件とは戻って来ない私兵団の団員を捕虜とし、このリアタフテ領への宣戦布告だった。
俺がリールより封書を受け取り読んでみると、敵はフォール率いるディシプルだけで無く、フェーブルの率いる私兵団、そして奴の領地より援軍も此処へと向かっているとの事だ。
そしてその手紙の内容はそれだけでは無く、降伏の勧告も記されていた。
降伏さえすれば領民へは被害は出さないとの事が記され、其の条件が実に一方的に書かれていた。
其の条件とはリールとローズの投降という、絶対に承服出来るものでは無かった。
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