第61話


 審判の試合開始の合図が告げられ、先ず俺とルチルが対峙した。

 俺の木刀による斬撃を軽やかに躱していくルチル。

 此方のハッキリとした利はリーチのみ。

 スピードは勿論の事、パワーも劣るかもしれない。

 俺は自身のギリギリの間合いを保った。


(遠距離から魔法を使うのも良いんだが、ルチルのスピードを考えるとな・・・)


 結果、この間合いで居た方がローズからの魔法による攻撃の選択をルーナに限定出来るだろう。


(流石にルチルに当たる可能性も過ぎるだろうしな)


「はあぁーーー‼︎」

「っ‼︎」


 あまり距離感だけを重視しても、プレッシャーは与えられ無い。

 そう思い俺は風切り音が聞こえる力を込めた斬撃を放ち、ルチルは自ら距離を置いた。


「狩人達の狂想曲‼︎」

「くっ‼︎」


 その隙を俺は逃さず、魔法により自身の周りに狼を従え、その内の一頭をルチルに放った。

 ルチルは其れを左足を踏み込んで半身の構えでやり過ごし、そのまま俺へと突進して来た。


「ちぃっ‼︎」

「やぁーーー‼︎」

「行け‼︎」


 折角生み出した狼達だったが、やられては意味が無い。

 俺は二頭を正面から、一頭を側面から放ち何とかルチルの体勢を崩した。

 ルチルは前傾でその手を地面に着いてしまっていた。

 このチャンスは逃さないと俺は最後の一頭を放ち、自らもルチルとの距離を縮めた。


「クッソォー‼︎」

「な⁈」

「はぁぁぁ‼︎」


 ルチルは何とその姿勢から側転で狼を躱し、そのまま左足で俺に対しソバットを放ってきた。

 俺は急停止をし、剣を構え直した。


「くっ‼︎」

「ふぅ・・・、ちぇっ」

「流石にこんなのは喰らえ無いからなぁ」

「はは、次は顔面に入れて男前を上げてあげるよ」

「ふっ」


 当然の事ながら全力でお断りするとしよう。

 だが、このチャンスを活かせなかったのは痛かった。


「しっかりして下さい、司様」

「うっ、すまん」


 背後から飛んできた余りにも静かな檄。

 その静かさに逆に凄みを感じた。

 俺とルチルのぶつかり合いを尻目に、ルーナもローズへと射撃を続けていた。

 ローズは日頃は使用しない、ルール範囲のプロテクターを着用し防御に徹し、未だ詠唱は行わなかった。


「ルーナ、余り無駄弾を使うなよ」

「此れは牽制ですので、無駄ではありませんよ?」

「いや・・・」

「射撃を止めたら、婚約者様の魔法が来ますよ」

「・・・」


 それは理解できるのだが・・・。

 啀み合ってはいないが、やはり根底で纏まれ無い俺とルーナ。


「余裕だね、司っ‼︎」

「ちぃ‼︎」

「僕を忘れるなんて寂しいよ」

「そう言うのは汐らしい女性の台詞だぞ、ルチルっ‼︎」

「はは、僕にピッタリだね‼︎」

「ふっ、冗談っ‼︎」


 俺は自身が隙を見せる訳にもいかず、ルチルへと牽制を続けた。

 然し試合が動くのにそう時間は掛からなかった。


「すいません、司様」

「ああ、了解」


 やはり弾切れを起こしたルーナ。

 俺はルチルへの牽制をしつつ、ルーナとの距離を縮めた。

 ルーナはアイテムポーチよりマガジンを取り出し、着け変えに入った。

 ルチルの背後、当然の様に構えに入ったローズ。


「ルチルっ」

「解ってるよっ」

「行くわよ」

「はぁっ‼︎」

「な⁈」


 ルチルは何と飛び膝蹴りを放ってきた。

 一瞬驚いた俺だったが、余りにも隙だらけなその攻撃に斬撃を合わせた。


「貰った‼︎」

「甘い‼︎」

「⁈」


 ルチルは俺が放った斬撃に対し、木刀に蹴りを入れその反動で後ろに飛んだ。

 曲芸師の様なその動きに見惚れてしまいそうになったが、ルチルにより塞がれていた視界が開けた先に、既に詠唱を完了したローズがいた。


「しまった‼︎」

「エアショット‼︎」


 ローズの狙いは俺だった。

 正確に顔面を捉えてきた空気の塊に、崩れた体勢で何とか両手でガードを固めた。

 きっと日本に居た時の俺なら両手と顔面の骨を砕かれているだろう、然し此の衝撃に今は耐えれる。

 情け無い話だ。

 日々の鍛錬を思い出しそんな事に一瞬酔ってしまい、次の対応を怠ってしまった。

 痺れる両手を下ろしガードを解いた俺の視線の先にはローズだけが立っていた。


「司様、後ろです‼︎」

「な⁈」

「はっ‼︎」


 俺は突如として身体が浮き上がるのを感じた。

 下を見ると股にルチルの小さな頭頂部が見えた。

 肩車?

 狙いが解らなかったが抵抗しようと思った・・・、刹那。


「遅い‼︎」

「くっ‼︎」


 片足を外しそこからルチルの腕が上がってきて、俺の後頭部を引かれた。


(此れは・・・‼︎)


 俺はそのままリングへと後頭部から肩を突き刺された。

 ルチルの放った其れは、某大作RPGの曲名より名付けられたと言う超危険なドライバー。


「か、はっ‼︎」

「司様っ‼︎」

「ル・・・」


 俺はルーナによる叫び声を何処か遠くの事の様に聴ながら、落ちていった。

 瞳に映る最後の光景はローズの何処か苦しそうな表情だった。

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