第59話


 昼食後フェルト達と合流した俺は試合で使用するリング下に移動した。

 すると其処には既にミニョン達が待ち構えていた。


「やっと来ましたわね、真田司さん‼︎」

「あ、ああ・・・」


 挑戦的な姿勢で俺達を迎えたミニョン。

 まあ、その割にはさん付けなのだが・・・。

 俺はそんな所にミニョンの育ちの良さを感じた。


「ここで会ったが百年目、前回のリベンジをさせて頂きますわっ」

「いやいや、前回君を倒したのはローズだし」

「うっ・・・」


 それに、ここで会ったがのくだり好き過ぎるだろ?

 俺はローズとなら兎も角、自分とはそんな関係性でも無いだろうにと思った。


「とにかく、此処で貴方を倒して決勝ではローズを倒してみせますわっ」

「悪いが、決勝に進むのは俺達だよ」

「ふっ、負けませんわっ」

「ああ、お互い頑張ろう」

「ええ‼︎」

「・・・」


 そう言って握手を交わす俺とミニョンを、フレーシュはどこか冷めた目で見ていた。

 そんな風に見られると、俺も少し気恥ずかしい気持ちになるんだけどな・・・。

 そして遂に俺達の試合の時間がきた。


「それでは2組ともリング上へ上がりなさい」

「「はい」」


 リング上で向かい合う俺達。

 こちらは俺が前衛に立ち、その背後リング際にルーナが銃をアイテムポーチから出し立った。

 ミニョン側は前衛がミニョン、後衛がフレーシュと当たり前の陣形だった。

 俺は試合開始と共に飛び出せる様に構えた。

 ミニョン達は此処まで魔法未使用で勝ち進んでいた。

 これは当然準決勝と決勝を想定しての事だ。

 なら先ずこの試合フレーシュは確実にミニョンの強化を行う。

 そして其れを阻止出来なければ一気にミニョンの危険度が跳ね上がる。

 俺達にスピードで勝るミニョンのパワーを上げられれば倒される可能性が出てくるし、スピードを上げられたらミニョンを捉える事は不可能となり、フレーシュの射撃によるフィニッシュへの布石となってしまう。


(とにかく、この試合は先制攻撃だ。まだ見せた事の無い改良型で相手に判断する間を与えず倒すっ)


「いくぞ、ルーナ」

「はい、司様」

「それではこれより準決勝第一試合、真田司組対ミニョン=ペルダン組の試合を開始します。両組共正々堂々闘う様に、・・・試合開始っ」


 審判役の教師の合図と共に俺は詠唱を始めた。

 対面からはミニョンが突進して来たが、ルーナが射撃で上手く牽制し、俺との距離を詰めきる事は出来なかった。

 フレーシュは予想通り先ずは詠唱を始めた。


「くっ・・・」

「いいぞ、ルーナ。さぁ行くぞ、狩人達の狂想曲‼︎」


 俺がそう唱えると同時に前方に五つの魔法陣が現れ、其処から五頭の狼が生み出された。


「良し、行け‼︎」


 俺がそう叫ぶと同時に、二頭の狼が其々ミニョンとフレーシュに向け駆け出し、同時に俺もフレーシュへと駆けた。


「なっ⁈」

「来い、お前達っ」


 フレーシュへと駆ける俺。

 そして三頭の狼がその周囲を囲む様に駆けた。


「そんな、何ですの?」


 俺の放った狼を見事な身のこなしで躱したが、困惑の表情を浮かべるミニョン。


「お嬢様っ、今はそれより真田様を‼︎」

「くっ、わかってますわ‼︎」


 フレーシュからの檄に俺への追撃に駆け出したミニョン。

 フレーシュに放った狼は当たる事は無かったが、詠唱を中断するには充分だった様で、既にフレーシュの前方に描かれていた魔法陣は消失していた。


「悪いがそうはいかないよ」

「えっ?」

「狩れぇ‼︎」


 その咆哮に俺と共に居た狼の一頭がミニョンに襲いかかった。

 何とか躱しすが体勢を崩し地面に転がるミニョン。

 その隙を逃さず、ルーナが射撃の雨を降らせた。


「きゃあぁぁぁ」

「お嬢様‼︎」


 フレーシュはルーナに向かい、弓を構えた。


「やらせるかぁ‼︎」

「・・・」


 俺は狼を一頭フレーシュへと放った。

 見事直撃し仕留めたと思った・・・、だがフレーシュは崩れず矢をルーナに放った。


「ぐっ・・・」

「なっ、ルーナ⁈」

「す、すいません、司様」


 腹部へ矢が直撃したルーナはダウンし、カウントが開始された。

 そのまま、フラつきながらも詠唱を始めるフレーシュ。


「くそっ、行けぇ」

「はぁ、はぁ」


 俺は最後の狼を放ち、自身もフレーシュへと駆けた。

 狼の牙を首元に受けながらも詠唱を続け、魔法陣を完成させたフレーシュはミニョンにアタックエフェクトをかけ倒れてしまいカウントの後ノックアウトとなった。


「フ、フレーシュ・・・」

「・・・」

「くっ、な、何なのですのっ」


 ルーナからかなりの射撃を受け何とか立ち上がったミニョン。

 ルーナも既にノックアウトとなっており、リング上には俺とミニョンだけになってしまった。


「・・・」

「フレーシュ、試合が終わったらたっぷり叱ってあげますわ」

「・・・」

「行きますわよ‼︎」

「悪いが・・・」

「え?」

「狩人達の狂想曲‼︎」


 再び五頭の狼を生み出した俺は、今度は全てをミニョンへと放った。

 フラつく身体で三頭を躱したミニョンだったが、二頭はヒットし膝をついた。


「っ‼︎ま、まだですわぁ・・・」

「・・・」


 震えの止まらない足で何とか立ち上がろうとするミニョンへと、俺は再び詠唱を行い狼達を生み出した。

 俺は足下に狼達を従え審判役の教師へと視線を送った。


「あ、あ・・・」

「・・・」


 固まってしまった教師に仕方なく、俺はリング下の責任者席に座るデリジャンへ視線を向けた。


「ふむ・・・」

「な、何ですの?」


 デリジャンは審判に向かい手でバツ印を作った。


「し、試合終了。勝者真田司組‼︎」

「な、なん・・・」

「・・・」


 審判の宣告へ不満だろう、進み出ようとしたミニョンはそのまま崩れ落ちてしまった。

 俺はその傍を進み倒れるルーナへと向かった。

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