第32話

ローズ視点の話です


 私ローズ=リアタフテは目の前が全て見え、しかし焦点はその何処にも定まらない感覚の中、ふと最近の事を思い返していた。

 たった数日前、まだ七十の時しか刻まない、でも今まで生きてきた中で最も濃密な時間を振り返った先に、私は真田司と出会った。

 半年前だった。

 王都からの使者が私に召喚の儀の許可を報告に来たのは。

 その時は自身の力が国から認められたのが嬉しかったでも、まだ初恋は知らなかった。

 幼い頃から両親に連れられ貴族の集まりに行く事が多く、その子達との交流を持っていた。

 最近の集まりでは沢山の恋の話が飛び交っていた。


「最近、私ジェネルー家のリッシュ様から恋文を頂きましたの」

「あら、素晴らしいじゃない」

「まあ、でも私、エフェ様がいるじゃない?」

「そうでしたはね、じゃあお断りに?」

「ほほほ、そう思ったのですけど、殿方に恥をかかしてはいけないでしょ?お食事だけお付き合いして差し上げる事にしましたの」

「あら、お優しいわぁ」

「でも、・・・ね?宜しければ紹介しましょうか?」

「あら、でも私、アマン様がいるから・・・」

「ええっ?アマン様と?」

「そうなの、つい最近、晩餐会でどうしても私と付き合いたいと」

「あらぁ」

「「ほほほ」」

「・・・」


 何時もの男自慢かぁと思った。

 ここ最近だろうか、こんな風に集まりに来ると、いつも恋の話しか出てこないのは。

 今日はアマンという男に誘われたノーブルの勝利の様だ。

 その証拠にエメはかなり顔が引きつっている。


(エメはかなりの面食いだから、ノーブルの男は余程顔が良いのね)


 まあ、私にはどうでも良い事だけど。

 私の生まれた家、リアタフテ家はサンクテュエールの一地方領を治める貴族だ。

 私はその一人娘として生まれた。

 本来ならこの国で女に家督を継ぐ権利は無いのだが、我が家は偉大なご先祖様のお陰で女である私でも次期当主になる事が許された。

 優しいお父様とお母様が、男に生まれ無かった事を嘆き哀しむ事は無かっただろうけど、ありがとうございますご先祖様。

 その為の条件が国の召喚士が呼び寄せた男との子をなし結婚する事だった。

 最近、そんな私にも言い寄って来る男が後を絶たなかった。

 その連中を見てこの娘達は羨ましいと言うが、正直な所私にはどちらに対しても軽蔑しか無かった。

 必ず別れる事が決まっているのに、私を一生愛するんだそうだ、・・・はぁ。

 私が異性で素敵と思えるのはお父様だけだった。

 お父様はお母様の婚約者としてこちらに召喚され、今は王都で将軍職に就いている。

 我が家は代々優れた魔導師を輩出する家系でお母様も偉大な魔導師だ。

 でもお父様は魔法が使えない方だった。

 当時学院に通う年代だったお父様は入学試験を受けたのだが、武芸の心得も無かった事から落ちてしまった。

 お母様のお父様、私のお祖父様は召喚の儀で選ばれたお父様は我が家にいつの日か益を与えてくれると学院に通う事を強要しなかった。

 ただ、お父様はそれで納得はしなかった。

 翌る日も、また翌る日もお父様は訓練と試験を繰り返し、遂に五度目の試験でその年の最高評価で合格する事となった。

 弛まぬ鍛錬の人、お父様を知る人は皆そう賛美する。

 私を何処に行っても誇らしい気持ちにさせてくれ、同時にその身を正し、日々の鍛錬を重ね続けさせてくれた。

 私の自慢のお父様、・・・果たして召喚の儀は私にどんな相手を呼び寄せるのだろう。

 使者が来てからすぐ私は召喚の儀の準備に入り、耳年増な親友ルチルから色々聞いて新しいベッドも用意した。


(ルチルは耳年増との評価に私程度で?と言ったが、私には刺激の強い話ばかりだった・・・)


 どんな人が呼ばれるのだろう。

 歳は、魔法は使えるのか、お父様の様に素敵な人だろうかとか、今まで味わった事の無い種の興奮をしていた。

 そして遂にその日がきた。

 呼ばれた人は真田司と名乗り、その髪と瞳はお父様と同じ黒色に輝いていた。

 私は一目惚れを信じていなかった。

 電流が走ったとか魂が引きあったとか何とか言い訳をしようとしても、結局遊びの相手には容姿しか求めてないと言ってる様なもの、それが私の一目惚れ評だった。


(これが、一目惚れなのね・・・)


 恥ずかしい女と罵倒され軽蔑される事だろう。

 でもそれで良いと思った、この人を好きでいれるなら私は恥知らずな女で構わない、そう決心した。

 私は一目惚れで初恋をした。

 司は魔法に興味がある様で私と同じ学院に通う事となった。

 一つ気掛かりがあった。

 召喚の儀が決まってから、私の親衛隊隊長を名乗るアンベシルがその取り巻きを使って、私の婚約者に対する悪評を流していたのだ。

 その学院の状況に気付いた司は学院長に試験を申し込んだ。

 独りよがりな妄想でも良い、きっとお父様と同じ事を考えたのだろうそう思い私はより司の事が愛おしくなった。

 試験はアンベシルからの横槍が入ったが、何と司は龍神結界・遠呂智と言う八連無詠唱を人類史上初めて使用し試験に合格した。


(流石、私の司‼︎)


 だけどその為に学院の武道場の制御装置の魔石が大量に廃魔石と化してしまった。

 私は心配だった。

 学院内で司が心無い中傷を受けるのでは無いかと・・・。

 言い掛かりでしか無いと解っていても司にそれを聞かせたくなかった。

 きっとお父様が同じ状況になってもお母様はそうしていただろう。

 私は自らの手で魔石を得る事にした。

 そして私はダンジョンに踏み入って・・・。


「あん?お嬢ちゃんお目覚めかい?」

「・・・」


 そして、囚われの身となった。

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