第28話
アーム曰く通常ダンジョンとは冒険者が活動する場だ。
そこには魔物達が生息し、過酷な地形環境を有する物も多く、鍛え抜かれた冒険者ですら命の保証は無く、一般的な人間にはとても生き抜ける場所では無い。
ならば、何故冒険者達はその様な所を職場としているのか?
答えは生活の糧を得る為だ。
代々の土地を有していれば農民になれば良い。
手先が器用で色々な物を作り出せるなら職人になれば良い。
親が商売をしているのなら子供の頃より躾けられ商人となるも良い。
力を持ち礼節も持ち合わせたなら騎士となれば良い。
またそもそも人の上に立つ者として生まれる事もある。
では冒険者が何故冒険者になるのか?
それは力を有した者が、自由である為にその道を志すのである。
(後半は補習でデリジャンが語っていた事と似ているなぁ・・・)
などと考えている場合では無い。
今はそれよりもローズだ。
何故ローズはダンジョンになど入って行ったのか?
アームもそこが疑問な様で、まだ冒険者登録も済ましていないローズはパーティを組む事も出来ないので、いくらローズが優れた魔導士であろうと、一人でダンジョンに踏み入るなど自殺行為だと言った。
じゃあ何故・・・?そう思った俺は、ハッとした。
(確かローズに魔石の説明を受けた時・・・)
そういう事かと思った。
あいつ・・・。
「すまん、アン、ルチル屋敷に戻ってすぐに状況を説明してくれ」
「え?司はどうするの?」
「俺は・・・、ダンジョンに向かう」
「「えーーー‼︎」」
アンとルチルは同時に驚きの声を上げた。
「悪いが説明してる暇は無い。アームさん馬車を借りれないですか?」
「う〜む、若様申し訳無いのですが今馬が・・・」
俺はアームの反応に確認する時間も惜しく、アンとルチルの方に走って報告に行って貰う事にした。
「待って、司」
「何だ、時間は取りたく無いんだ」
「解ってるって、僕も行くよ」
「え?」
「ローズは僕の親友なんだ、当たり前でしょ?」
俺はルチルの実力の程は知らないので、どうしようかと思ったが、時間を掛けたく無いので防魔套の用意をとだけ短く告げた。
「それならば、良い物が」
アームはそう言い、ギルドの建物の中に入ってプロテクターと剣を持って来た。
「このプロテクターは防魔套と同じく魔空間の負担を軽減してくれます。あとは新品とはいきませんが手入れの行き届いた剣です」
「ああ、助かります」
「うむ、ですが若様、くれぐれもご注意を」
「ええ、勿論です」
こういう時に色々言ってこないのは助かる。
アンは衛兵と共に屋敷に向かい出発して行った。
無事に帰ったらアンの鰻をあげるにゃと言ったのは、あの娘なりの気遣いだろう。
・・・だからいらないって。
「それと・・・」
「どうかしましたか?」
「はい、これは未確認なのですが、最近リアタフテ領内に良からぬ者が入り込んでると情報がありまして・・・」
「良からぬ者?」
アームが言うには非合法の盗賊ギルドに所属する連中が最近リアタフテ領内を根城に活動しているらしい。
先程アームが衛兵と話していたのはその事で、もし出くわしたら必ず逃げる様告げられた。
そうしてアームに見送られ俺とルチルは馬車でダンジョンへと向かった。
やがて馬車が到着したダンジョンは、入り口から覗くと緩やかなスロープが螺旋状になっているのだろうか、進んだ先は確認出来なかった。
「これが、ダンジョンかぁ」
「あれ司ってダンジョンは初めて?」
「ああ、ルチルは違うのか?」
「うん、って言っても子供の頃に故郷で入り口付近だけだけどね、肝試しみたいなものだよ」
「なるほどな」
まあ、子供はそう言う冒険心を誰しも持っているものだろう。
学院でダンジョンの事を学ぶのかと聞くと、まだの様だった。
ダンジョン関係の授業は一年では後半に習い、進級後冒険者希望の者はより高度な事を学ぶそうだ。
「うちの学院は王国関係の騎士や宮廷魔導士が就職先の一番人気だからね」
「冒険者は?」
「う〜ん、少ないかなぁ、ローズはそうらしいけど、司も?」
「俺はまだ決めてないけど、ちょっと興味はある」
「そっかぁ〜、まあ僕はこっちだけど」
そう言ってルチルは握り拳を、締め付けるべき山の無いプロテクターの前にあげた。
「肉体労働?」
「違うよっ‼︎武道の師範だよ」
「師範?」
「うん、将来自分の流派を開きたいのさ」
「へぇ〜」
「まあ、その為には先立つ物が必要だけどね」
「まあ、それはそうだな」
(そういう所は日本だろうと異世界だろうと同じだな)
「そういえば、このダンジョンって当然魔物は出るんだよな?」
「勿論、ここはワーウルフが主に生息してるらしいよ」
「ワーウルフって、狼人間か?」
「一応二足歩行だけど、人間って感じは全く無いね」
「そうかぁ・・・」
まあ、良かったのかな?
自分を殺しにくる相手に情けをかける程間が抜けてるつもりは無いが、いきなり人に限りなく近い存在を殺す事に恐怖はあった。
(ただこの先慣れる必要もあるだろうし、こういう選択肢がない状況はちょっと助かったりもするな)
そうして覚悟を決め俺はダンジョンへと踏み出した。
「さあ行くぞ」
「うん」
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