第27話
「はあ、やっと終わりかぁ・・・」
「情けないのぉ、これしきの事で」
「いやいやいや」
今日の補習はデリジャンとマンツーマンで、礼儀作法の授業だった。
何故戦闘科にそんな授業が必要なのか聞いたが、将来各国騎士や軍人になるものも多く、公式の場での所作は1年次に習うと言われた。
ただ俺にはどうしても興味が持てず、今日の補習はただただ疲弊しただけだった。
そうして、デリジャンと別れ校門に向かおうと移動していると、肩から鞄を下げたルチルと会った。
「やあ、司、やっと来たね〜」
「え?ルチル、どうしたんだ?」
「うん、ちょっと乗り遅れたみたいで、寮に戻っても知り合いが居なくて暇してたんだ」
「ああ、みんな出掛けたんだな」
「そうそう、だから一人で居てもつまらないし、ローズの所に泊まりに行こうと思って」
「ん?大丈夫なのか?」
急に泊まりと言っても都合もあるだろうと思い、口に出た言葉の二つの意味をルチルはしっかり理解し応えてきた。
まずローズの都合は問題無いそうだ。
ルチルはリアタフテ家には良く泊まりに行くそうで、リールからもいつでも来ても良いと許可は貰っているのだそうだ。
二つ目は寮の許可でこれも問題無いとの事だ。
そもそも寮には成人した者、外で働きながら学生をしている者もいるそうで外泊に許可は必要無いようだ。
そんな訳で家主であるリールの許可を持つ者を、俺が断る話も無いのでそのまま二人で校門に向かった。
「うにゃっ、にゃにゃっ、待つにゃ〜‼︎」
「ん?」
俺達が校門に着くとそこには、ヒラリヒラリと舞う蝶々を追いますアンがいた。
「・・・」
「はにゃ〜‼︎にゃ?何にゃ?」
「・・・」
「は、離すにゃ、ご主人様ぁ?」
俺は補習の疲れもあり、無言でアンの首襟を掴み馬車の中へと向かった。
「にゃ〜〜〜」
「・・・」
「は、ははは」
馬車の席に着き、出発し少し体力も戻ってきた俺はアナスタシアが来てない事をアンに聞くと、屋敷の方で仕事があるとの事だ。
(まあアナスタシアは元々ローズのメイドなんだし、ローズが帰宅済みである以上屋敷優先だろう)
「あ、そう言えば街に寄って帰るの」
「ん、どうしたお使いか?」
「違うの、ローズ様を迎えに行くの」
「ローズを?帰ったんじゃなかったのか?」
「ううん、アーム様に会いに行くって言って、途中で馬車から降りたみたい」
「そうか・・・」
そう言ったアンに俺は自らの唇に宿った、ローズの残り香に頰が紅潮するのを感じた。
「どうかしたの、ご主人様?」
「大丈夫?熱でもあるの?」
「日頃勉強して無いから知恵熱と見たの」
「ははは」
「にゃっ、ひひゃいにゃ〜」
「ははは」
俺は失礼な態度をとったアンに主従関係というものを示すため、その頰に制裁を加えておいた。
「ひゃにゃすにゃ〜」
「・・・」
「ははは」
街に到着した俺達は冒険者ギルドへと向かった。
途中アンにパランペールに会いに行かなくて良いのか聞いたが、必要無いとの事だ。
まあ、家を離れてそんなに時間は経っていないが意外と里心とか無いんだなと思ったら、シャリテ商会では料理長を中心に練習も兼ねて、その日毎の調理担当の奴隷達により調理が行われるのだが今日はハズレの日との事だ。
実にアンらしい理由だが・・・、可哀想にパランペール。
そうして街の中でも高さの部分では、シャリテ商会を上回っている建物に着いた。
ここが冒険者ギルドである。
その入り口には、アームと衛兵が何やら話し込んでいた。
「こんにちは、アームさん」
「おっ、これは若様、ついにギルドへの登録に来られたのですか?」
そう言えば前向きに検討ると返事をしておいたな。
(あれから、色々ありすぎて何も考えていないのだが・・・)
「いえ、今日はローズを迎えに来ました」
「?お嬢様ですか?」
「ええ、アームさんに会いに来ていると聞いて」
「いえ、お嬢様はいらしてませんぞ」
「えっ?」
ローズが学院から出てもう4、5時間は経っているのに・・・、帰ったならわかるが来ていないとはどういう事だ?
俺はアンにパランペールの所に行っていないか確認に行かせ、ルチルは街に来た時に行く店を見に行ってくれた。
だが、その全てが空回りに終わり、途方に暮れていると一人の衛兵がアームの下へ飛び込んで来た。
「アーム様」
「おお、どうしたんじゃ?」
「はっ、はっ」
急ぎ慌てていたのだろう。
かなり呼吸が荒くなっている衛兵の為に、アームはギルド職員に水を用意する様に命じた。
その間に聞いたが近衛はダンジョン付近で魔物の調査を担当しているそうだ。
用意された水を一気に飲み干して一息ついた衛兵から語られた内容に俺達は驚かされた。
「何でローズが・・・」
その衛兵曰くローズが一人でダンジョンへと入って行くのを見て止めようと追いかけたが、見失いアームに連絡に来たそうだ。
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