漏水百句

田中目八

『漏水百句』

こはいみづみつきんぎよだまにみつ

金魚売ぽたりぽたりとはなぢかな

万緑や呼吸困難窒息死

一心不乱鯖ほぐるる領域

横たへば腹が鳴るなり卯の花腐し

カレーにはレシピ不要の裸体かな

夏痩せの尻のくぼみの誉れかな

ラーメンの汁は共有若葉風

ジヤムパンに潜む苺といふ邪悪

韻を踏む隣人疎しさくらんばう

白南風やビートの違ふ皿二枚

ほんたうに放つておかれてひるねびと

空中戦準備してゐる端居かな

新しき放課後月のパパラツチ

蚯蚓鳴くバンドの話交じり得ず

パンクスの革ジヤン重し遠砧

松林デイストーシヨンや霧を踏め

鳥風や横たふ身体凪がれゆく

われもまた岸辺のひとつ天の川

大天漢亀の下には更に亀

亀の背に乗りて菊花を採りにゆく

年寄の話半分桃は切る

性差無き部屋に飲みほす桃の露

短編に老ゆる身のあり秋薔薇

墓守の墓と定めて野菊をり

洗濯機みてゐる注意するレモン

栗拾ひ余所者どもがライオツト

園児ばらばら銀杏落つる公園

前進を示して無言秋茜

シユーメーカーレヴイ彗星芒原

行儀よく順番守りて霧に消ゆ

黄泉比良坂柚子湯の柚子を割れ

色ながら散るむしろ薬師丸ひろ子

鵙の贄帰りてアニメ観る時間

緋毛氈切り裂きながら冬に入る

なにもかも炬燵任せで辞職する

積極性冬籠靴下に穴

あんかうとねんごろなるや口内炎

寒林檎磨きて末に召されさう

ゆつくりと凍みゆく死あり台所

怪鳥の如く白息乾布摩擦

ライブハウスの扉重たき鮟鱇

デスメタルからくる狼の背後

寒林にゆきずる骨の音還る

転がせば枯木の先にグラフイテイ

スピードが進化してゆく青写真

裸木に凭れる肉の愉悦かな

狂想を騙らぬ冬の泉あり

浮生には少し重たき冬林檎

その中の一つが記憶冬木立

ザビエルのハートマークや冬日和

リヤカーと犬とサンタクロース来る

冬蠅の聖母たりえしハンバーグ

葉牡丹のことに屍骸と流れ着く

舟底に動かぬものあり鬼儺

ぱらいそにおいてけぼりのふゆりんご

大根には意地といふもの歓喜天

霜焼けの悔ゐなき指が聳え立つ

豆撒やコロツセオから飛ぶ話

チンドンに白息子ども等すたすた

水星に凍つやぼくの舟に魔法

のうさぎのひかりのなかへいのちかな

人類に湯豆腐はあり小をどりす

あくる日もはや寝はや起き裕明忌

数へ日にヤクザ映画の二本立て

ハイタツチ再び町に去年今年

兵隊のカジユアルウエア初詣

間取り図をひろげばゐたり年爺さん

斑雪野にオパールそつと落つるなり

春あらし野蛮めきたる街たのし

春暁に来る三人起きてもダンス

登用されるまで焼野にゐるつもり

青帝に昼餉を用意不登校

古雛が段段われに似てきたり

さへずりや天井あふぐ地底人

蝶生る螺子をひだりに廻しけり

ユニコーンのやさしいおしり半仙戯

青帝の剣なりボーイソプラノ

この街の膜を突きぬけ鳥帰る

魔法しか取り得がなくてあをき踏む

東風吹ひて赤青黄のポーズせり

立ちのぼる野糞湯気かめ鳴きにけり

かぎろひにえいとびつとのひみつかな

春惜しむ人来れば止む歯軋り

振り向けばしけた面なりヒヤシンス

結局はみんないいやつ春うれひ

亀看経永久脱毛しゆくしゆくと

万緑に怯んでまたも引きこもる

狂人に一歩一歩の昼寝かな

勝ちたひと思ふ裸のありにけり

熾天使の翼の如きバナナかな

差押調書到来いちごみるく

炎帝に賜るメロンパンに死す

堕天使の涎に溶くあいすくりいむ

徒党組む奴共あぢさゐはゆるす

まどしさの清より濁や楸邨忌

空蝉につづく血脈踏みしめる

鯨骨の除肉終わらぬプールあり

おにばすとオモニと翁泛かびをり

みづがみづこはしつづけるたきはみづ

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漏水百句 田中目八 @tamagozushi

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