第6話 勇者と魔王

 勇者討伐隊が勇者の手により全滅し、私は次の玩具をより楽しめるように下準備をしようと考えた居た所に、勇者はこちらを見て話しかけてきてしまった


「おい、そこに居るんだろ」


 気配を消し隠れていたのだが、これだけ近づけばあの男に気付かれるのも当然かと観念し、私は姿を見せた


「よくわかったな、愚鈍そうな印象を受けたので油断してしまったよ」


「気配を消し過ぎだ。人型の虚無が漂ってたらそりゃ気づくだろう」


「それもそうだ。こそこそするのには慣れていなくてね。御見苦しい所を見せてしまったな」


 しばらく勇者と軽口をたたき合いながら睨み合っていると、勇者は口を閉じて顎を撫でながら何やら考えて、しばらくの沈黙の後口を開く


「ん~・・・あぁ…。雰囲気が大分違うが、前に合った事が有るよな? 間違いなく…」


「雰囲気が違う? そうか・・・。しかしそれはお互い様だろう、単騎で一軍と張り合う程の男が野良犬に成り下がりおって、血生臭いのは相変わらずの様だが」


「ああ…、血生臭いのはお互い様だよな!」


「シュ…ッ」

   「パン!」


 勇者がこちらに斬りかかって来たのを、私は半身になって躱しながらマントで勇者の顔を軽く叩てやる


「きっ!」


 じゃれてやった事にご不満なのか、勇者はさらに太刀筋を鋭くさせて攻撃して来た。そうで無くては


「シャンッ」


 一撃目の斬り下ろしは私の動きを誘導する為のフェイント、あえて踏み込んでやろう


「シュルン!」


 本命の下からの切り上げが来る。それを軽く躱してみせ、手を広げてオーバーなリアクションをとってやる


「ビュンビュン」


 私に攻撃を躱されたと見るや、剣先を小さく回す様な素早い斬撃で二回牽制・・・


「シュン!」


 ・・・っと! 不意に攻撃のタイミングを変えられ右肩から左わき辺りまで皮一枚斬られてしまった


「おっと! ハハ、せっかく人間界に合わせて作らせた服がダメになってしまったではないか。仕立て直さないとな」


 私はそう言って距離を取り、傷を指でなぞって衣服ごと傷を塞いでみせたら、勇者は強い口調で私に聞いてきた


「今更なぜ俺の前に姿を見せた魔王!」


「たまたまお前が手配されているのを見かけたのでね。隠居生活も退屈なんで、暇つぶしに見物しようと思って来ただけだが?」


「ハハ、少しのスリルを求めて動物園の獣を覗きに来た老人の様な言い草だな。だがお前はもう観客じゃない、猛獣の檻の中に足を踏み入れたのさ」


「猛獣? 共食いするだけの小動物の間違いではないか?」


「ぬかせ!」


 勇者は私のジョークが気に食わなかったのか、怒り任せに一気に間合いを詰めて大振りの連続攻撃を私に向かって振るっってきた


「ブンッ!ブン!ブルン!」


 躱すのは容易、剣圧が生むそよ風の中、私は懐の懐中時計を取り出し蓋を開いて時刻を確認した


「もう夜も遅い、余りうるさくすると近所迷惑だ」


「うるさい? これよりもかッ!」


 勇者は床を強く踏みつけると、バラバラになって崩れ落ちた。大振りの攻撃は床を切断している事を悟らせない様にする為だった様だ。足場が無くなったところで私には無意味だが、勇者はどうする気なのだ?


「えい!」


 勇者は壁を走りながら斬り込んで来る


「ちっ」

  「ガン」


 私は懐中時計で勇者の剣の切先を挟んで受け止めた


「おらっと!」

   「ぐぅ!」


 しかし勇者は壁を蹴って私にタックルされ、私は反対側の壁に叩きつけられそのまま下の階に勇者ごと落ちて行った


「勇者め、こしゃくな真似を、・・・ん」


 私の懐中時計が無くなっていた


「へへん、パーティー中に時計なんか気にするなしらけるだろ」


 そう言って勇者は私から取った時計の鎖を持ちプラプラさせた後・・・


「バリッ」


 ・・・握り潰した後に私に投げ付け、続けてこう言う


「今夜は寝かさないぜ。いや、今夜で永遠に眠ってもらうぞ、魔王」


 私は勇者に語り掛けながら、投げ渡された懐中時計受け取り魔力で修復させ・・・・


「大きな寝言だ、いびきにも似ているな」


 ・・・・先ほどの勇者の様に鎖をプラプラさせて見せつけながら言った


実力差を見せつけ目覚めさせてやろう、勇者よ!」


 私は懐中時計を空間に仕舞いながら小振りの刺突剣スモールソードに入れ替え、勇者に突を放った


「ギギギギッ」


 私の剣を勇者は受け流したが、その際に金属音が鳴り響き、勇者は自分の剣が少し抉れているのを見て動揺する


「この刀身ッ、ヤスリになってやがるな!」


「ご名答、これで受けた傷はグシャグシャになり痛みも凄いぞぉ。そして…」


 私は自分の手の平に、ゆっくりとスモールソードを奥まで突き刺して一気に引き抜き、続けて言った


「魔族の血が体内に入ると、人間は苦しむという。試してみないか?」


 勇者は、私が傷を塞ぎ表面の余分な血を舐めとる行為を見ながら、こう言ってきた


「マゾのサディストが」


「アナタは人の痛みが分からないとよく人間には言われたが、苦痛が分からなければいたぶりがいも無い。違うか、勇者?」


「わからないな、その手の趣味は無くてね」


「そうかい、それは残念だ」


 勇者の言葉は本当に残念だ、ただ敵を屠るだけ機械にんぎょうなど、本当につまらない




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