第35話 浴衣
自分が浴衣を着て、花火大会に行くことになるなんて。
それも、相手はあのショウとだ。
夢じゃないよね……
彼のヒロインには一生なれないと思っていた。
漫画や映画だと私の立ち位置は、ヒロインが好きになった主人公の友達の一人で終わるはずだった。
物語のわき役で終わるだろう私が、花火大会というメインイベントに主人公と行く日が来るだなんて、去年までの私だったら絶対考えられないような出来事だ。
「ユウキちゃん楽しそう。って、危ない危ない。今日はショウ君もくるから、ユウちゃんて呼ばないといけなかったね。間違えないように気をつけないと」
「いや、ほんと名前間違いは絶対に絶対にやめてください」
ユウキ? え? そう言われてよく見てみたらあれ……ってのだけは絶対に回避したい。
「うん、この間違いは致命傷だものね。わかってる。今からユウちゃんてちゃんと呼ぶように気をつけます。それにしても私の彼氏と会うのも初よね~」
「あのリサ姉が捕まえてる人だから、どんな人かは実はめちゃくちゃ気になってました」
「あっ、写真見る? ユウ……ちゃんのほうは、ショウ君の写真ないの?」
「会ってからのお楽しみにしておきます! ショウの写真はユウキのほうのスマホにはあるんですけど、今日巾着だからユウキのほうのスマホがショウにばれたらまずいから置いてきちゃってて」
「ユウちゃんのスマホで撮ってないの? 彼女なのに?」
「本当は、恋人らしいツーショットの写真が欲しいんですけど。ショウのスマホにはユウとしての写真を残しておきたくなくて……」
やっぱり写真って形に残ってしまうと、ユウキと比べられて発覚されたらも困るし。
誰かに見せた時に、私の詐欺メイクをみやぶる人物が現れるかもしれないと思うと、写真が撮れないんだもの。
「なるほど……カメコもやってた私に任せなさい。今日は浴衣も着ているし、こっそり二人のツーショット写真撮ってショウ君にばれないように後日渡すからね」
「リサ姉~ありがとう」
流石リサ姉である。
「さてと、そろそろ着替えますか。私が先に浴衣を着てしまうと着崩れちゃうから、先ユウ……ちゃんね」
ユウキと時々呼びそうになっているのがちょっと不安だ。
リサ姉は慣れた手つきで私に浴衣を着せてくれる。
あっというまに仕上がって、私は思わず姿鏡の前で非日常の姿に興奮してくるくると回ってしまう。
本当に私花火大会行っちゃうんだよ。それも好きな人と……
浴衣に着替えたことで、より一層現実味が増してきた。
早くショウに会いたい。
浴衣似合うよって言ってくれるかな。
二人で見る花火はどれだけきれいなんだろう……私ずっと忘れないだろうな。
いろんな思いが一瞬で駆け巡る。
リサ姉は楽しそうにくるくるしてる私をみて、まるでお母さんのように優しく見守ってくれているのに気がついて急に恥ずかしくなる
「あっ、はしゃぎすぎました……」
「いいよいいよ~。だって浴衣着て好きな人と花火だもんね。今日はきっと特別な思い出になるよ」
私の気持ちを読み取るかのようにリサ姉はそう言った。
私はそれに何度もうなずいた、本当に私が今こんな風にショウとデートできるのも全部全部、リサ姉が私に詐欺メイクを教えてくれたことから始まり。
ショウと付き合っちゃいなYOと背中を押してくれて。
旅行が駄目になった私を花火大会に誘ってくれて、バイトも玲さんに上手くやってくれたおかげで実現したんだもの。
待ち遠しくて私は何度もリサ姉の家の時計を見る。
待ち合わせの時間がこんなに待ち遠し。
そんな私の様子をみて、リサ姉は笑うと。
「さて、私も先に浴衣着ちゃうわね」
そういって、自分で浴衣をてなれたしぐさで着つけていく。
もう家を出た? ってショウに聞くのは早いかな。
どうしようとリサ姉の着つけを待っている間、ショウになんてラインを送ろうかと悩んでいるとショウのほうからラインがきた。
『ごめん、今日は行けなくなった。埋め合わせは必ずするから』
と。
は?
え?
ウソでしょ?
そんなこと今言われても。もう、私はリサ姉に着付けもしてもらったのに……
どうして……やっぱり人ごみがすごいのが行く前からわかってるから嫌になった?
いや、違う。ショウはそんな理由で約束を断ってきたりしない。
毎年約束もせず行っていたと言うだけで、約束もしてないユウキと地元の神社の祭りに行くことも律儀に断ってきたくらいだ。
何か理由があるはず。
『どうかしたの? 大丈夫? 今日のことだったら気にしないで。私も友達と楽しんでくるから』
ショウが気にするだろうと、私友達と楽しんでくるからと嘘をついた。
一体何があったの? と思ったけれど。
ショウからは『ごめん。今度埋め合わせするから』とだけしかこなかった。
こちとら、知り合いに一応会った時のために、もう狐のお面とかまであらかじめ用意してたのに。
浴衣だって準備して楽しみにしてたけれど、やはり主人公の友達が本当の姿の私は花火大会になど、主人公と二人きりで行けないようになっているのだ。
「……」
スマホの画面をみてため息をついている私をみて。
「どうしたのよ?」
リサ姉が私のラインを覗き込み、ショウとのやりとりをみてアチャーって顔をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます