第39話 嘘の私が本物の君についたウソ

 なんで、どうして……って原因はおそらく私の声だ。

 ユウの顔は詐欺メイクでかなり作られていたけれど、ユウの声は普段の私より少し高い程度だ。

 それも、すべてが高い声ではない。

 そえに常時声を意識して会話してるわけじゃない、ふっとしたときに素の声が出ることがある。



 さっきの会話はどう考えても、ショウは今の通話相手が私だと確信を持って通話を切った。

 付き合いが長くて相手のことを知っているのはショウが私に対しても同じだった。

 だから、電話の向こうで今自分が電話をかけている相手がユウ=ユウキだとわかって吠えたのだと思う。



 どうしようどうしよう。

 頭の中が『どうしよう』だらけになる。

 ショウに電話を折り返す? いや、電話をかけたところでなんて言えばいいかわからないし、ごまかせる術が私にはない。

 とりあえず、ここにしゃがんでたら駄目だと立ちあがったけれど、鼻緒が切れていて動けそうにない。

「どうしよう……」

 そう呟いて、お面を顔に戻しながらずるずると私はその場にまたしゃがみこんでしまった。



 どうしよう、どうすればいいの? としている間にどれくらい時間がたったのだろうか。

 再びユウのスマホが鳴った。

 画面にはショウの文字が表示されてる。

 どうしよう、電話に出るべき? どうしたらいいの? まだどうすればいいか決めれてない。

 着信音が鳴り響く、しばらく待ってみたけれど電話は切れない。

 こんなことなら電源を切っておけばよかった……





 そんな時だった。





「見つけた」

 くるりと後ろを振り向けば、スマホを耳に当てたショウがそこに立っていた。

 思わず、私はショウから着信がきているスマホを地面に落してしまった。

「あっ……あっ」

 私は慌ててスマホを拾って、巾着にしまうとショウから見えないように後ろに隠す。

 あれだけ毎日毎日会いたいと思っていた相手とこんなにも会いたくない日が来るとは……

 後ろに下がってショウと距離をとりたい。

 できれば、この場から全力疾走で逃げ出したい。

 でも、それは鼻緒が切れてしまってる下駄のためできそうにない。


 

 ショウが電話をかけたままだから、巾着にしまっても着信音が鳴り続ける。

「電話……でないの?」

 ショウがそう言う。

 出れるはずがない、だって、ショウはユウに電話をかけているのだから、今電話に出てしまったら、もう確実に言い逃れができない。



 お面の視界が狭いのと、周りが暗いせいで、ショウが今どんな顔をしてるのかがわからない。

 私は巾着に電話を入れたままギュッと音がなるべく小さくなるように巾着ごと握った。

 でも、それで電話が切れることはない。


 ショウがため息を一つついた後、スマホを操作すると、電話が切られたようで、私のスマホの着信音もほどなくして当然止まる。



『実は、あなたが告白した相手は、詐欺メイクをした私でした』とか。どの面下げて言えると言うのか。

 そして、さっき告白して逃げた私はどの面下げてショウの前に出ればいいのか。



 じゃりじゃりとショウがこちらに歩いてくる音がする。

 そして、私の前でピタッとその音が止まる。

 どうしよう、今目の前に絶対いる。

 でも、顔があげられない。


 ショウが再び自分のスマホを操作すると、私の巾着から着信音が流れる。止まる、流れる……

 もう言い逃れのしようがない。

「スマホ出して」

 お面のせまい視界に入る、ショウの骨ばった手……

 ショウからの着信だらけのスマホを差し出せるはずもなく私は首を振った。

 ショウが巾着を取り上げようと手を伸ばしてきたのがわかって、慌てて離れようとしたけれど、私は鼻緒が切れていたためバランスを崩す。

「わっ」

 その身体は、いとも簡単にショウに引き寄せられ抱きとめられる。

 お面がショウの身体にあたって、コロリと地面に落ちてしまう。



 あっ!? と思った時にはもう遅く、お面が顔からおちて、視界が一気に広がる。

 私の今日の顔、ユウキじゃない……

 ショウに抱きとめられている今、お面を拾うことはできない。

 顔を隠さなきゃ……隠さなきゃ……もう手遅れだとは頭の中でわかってる。でもまだばれたくないとあがいてしまう。


「おい、大丈夫か? どこかひねった?」

 顔を隠すために不自然に動かない私に怒ってもいいはずのショウが心配してくる。

 あぁ、私が全部悪かった。

 ショウとウソの姿で出会ったときにすぐネタばらしをしていたら、告白されたときにネタばらししていたら……

 ばらす機会なんて今まで沢山あったのに、私はショウのヒロインでいたくて……嘘の私じゃ本物の君のヒロインになれないのに、ずっとずっと嘘をつき続けてきた。



「おい、ユウキ。痛いか痛くないかくらい言えって」

 ショウはそういって、私を自分から引き離した。

 とうとう、私の顔を覗き込んだのだ。

 そう、私の最大の秘密、嘘の私の顔を……



 今の顔をみてショウがハッと息をのんだのがわかる。

 私の顔を覗き込んだショウの顔が、私の今の顔をみて明らかに動揺して、目が泳ぐ、それでも今目の前で起きている事実からショウは目がそらせない。


 ユウキとユウの声が同じなのはどういうことか。電話口にでたのはユウではなくて、ユウキだとショウはとうとう長年の付き合いで私の嘘をみやぶったけれど。

 まだ、しっかりとした確証というのはなかったのかもしれない。

 だって、顔がユウキとユウじゃ全然別人なんだもん。

 実際に、ユウキの顔がユウになっている、という現実が上手く処理できないようで動揺から私の肩をつかむショウの手の力が強くなって痛い。

「……ウソだろ」

 ショウの口から出た当然の言葉に私の心がギュッとしめつけられるかのように悲鳴を上げる。

 そうこれが、嘘をついた私への罰だ。




 こらえていた涙がポロリとこぼれた。

「ショウ、ごめん……ごめんなさい」

 今更遅いのはわかっていたけれど、私はそれしか言えることがなくてショウに謝った。

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