第38話 思い出は走馬灯のように

 どうしよう……言うつもりなんてなかった。

 そういくら思ったところで一度言葉に出してしまったら引っ込まない。


 お面のせいで視界が悪い。でも、ショウが私の一世一代の告白を聞いて、口元に手を当てて下を向いたのが見えた。


 困ったんだと思う……友達だと思い込んでいた私が好きだと言ったんだもん。

 それに、ショウは私を選ばない。

 ずっと思ってもユウキじゃ手に入らなかった彼はたった1回ハンカチを拾ってあげた、彼のヒロインになれる容姿をしたユウに実にあっさりと奪われてしまったのだから。


 どれだけ、私が傍にいて、一緒に楽しい時間を過ごしても。それは友達としての時間でしかなくて。

 『ユウキ』はショウの親友になれても、彼のヒロインにはなれない。



「なっ……なーんてね」

 自分でも苦しいとわかってる、でも出した言葉を冗談になんとかしたくて思わずそう言ってしまう。

 今きっと私はひどい顔をしてると思う、お面でそれが隠れているのが幸いだ……いや、お面が落ちでもしていたらもっと大惨事になっていたことだろう。

 だって、ショウがユウキだと思っていて話しているお面の下にある顔はショウの彼女であるユウなんだもの。


 お願い冗談で流してよ、聞かなかったことにしてよという願いはむなしく……

「お前そんな冗談今まで一度もいったことないだろ」

 とはっきりと言われてしまった。



 そりゃそうだ、好きだとか恋愛ごとを意識する冗談を私がショウに言えるはずがない。だって私は本当にずっとずっとショウだけが好きだったんだから。

 言えば友達じゃいられなくなる言葉を言えるはずもない。

 そして、たった今。友達の線から出ちゃった私は――もう彼の友達として傍に入れない。


「私……急いでるから、じゃぁ」

 そういって、ショウを置いて早足で祭りに向かう。



 カランコロンと私が走るたびに、下駄の音がなる。



 終わってしまった。あんなので口出してしまった言葉がなかったことになんかならない。



 全部、全部、全部水の泡。

 友達でいるためのこれまでの無駄な努力も、我慢も……

 口に出したら私達の関係は終わっちゃうってわかっていたのに、あの瞬間言わずには入れなかった。



 お面のせいで視界が悪い。それでも、私はこの場から逃げ出したくて走る。

 浴衣のせいで走りにくいけど、それでも立ち去るために足が自然と動いた。

 



 苦しい、お面のせいで酸素が上手く吸えない。

 酸素を求めて私の口がパクパクとなる。

 苦しくて横腹が痛くなっても私は止まれなかったし、後ろを振り返ることができなかった。



 行くあてのなかった私は、自然とぼんぼりの灯りに吸い寄せられるかのように走っていた。

 そのため、今は全然そんな気分じゃないのにたどり着いたのはショウと毎年行っていた神社のお祭りだった。



 薄暗くなってきたこともあり、子供の手を引く家族ずれであふれている。

 神社へと続く階段では、待ち合わせをしているだろう小学生のグループが何人もいた。

 そんな中を、私はキツネのお面をつけたまま浴衣姿で階段を1段飛ばしで駆け上がる。

「あの姉ちゃん早え~」

 50段ほどの階段を登り終えると、神社の境内には沢山の屋台が並ぶ。

 すでに、何人かのお客さんが並んでいて、賑わっていた。



 焼きそば、お好み焼き、箸巻き、たこ焼きソースのいい香りがするけれど、私はいつもだったら絶対に立ちどまる匂いにわき目も振らず早歩きで、奥へ奥へと当てもなく私は進む。

 金魚すくい、射的、りんご飴、型貫き、やきとり、ヨーヨーすくい、クレープ、フライドポテト!

 店の横を通り抜けるたびに、今は思い出したくもないのに、過去のショウときた祭りの思い出が次々と浮かび上がってくるから不思議だ。



 まだ、タピオカドリンクは一緒に飲んだことないや……

 まるで、走馬灯のように次々と思いだしてしまう思い出の数々のせいで、もう二度と私がショウとこの祭りに来ることはないんだと、嫌でも付きつけてくる。

 本部のテントの横をぬけて、人のいない神社の裏手のほうに回る。

 子供だらけということもあって、裏手には屋台の洗いものなんかが置いてある位で人がいなかった。



 でも、洗い物があるってことは、ここにいたら誰かが来るわけで。

 私は少しだけと神社の裏手の山の中へと入った。

 子供の頃の遊び場だったから、どこに行けば蚊が少ないか今でも何となくわかる。

 もっと奥に行きたかったのに、山道に入ったせいか、リサ姉も下駄を変えたほうがいいと言っていた代物だったせいかわからないけれど。

 鼻緒がなんと、切れてしまった。

「嘘でしょ……ほんと私ついてない」

 ついてない……祭りの騒音が遠くに聞こえる山の中で私はしゃがみこんだ。



 そんな時だ、巾着に入れていたユウの携帯が鳴ったのだ。


 携帯の画面に表示されたのはショウの文字。

 今、絶対会いたくない相手……だ。

 だけど、ショウにとってユウキユウは別の人物。電話に出ないのは不自然だし。

 ショウがユウキのことを探していたらどうしようという気持ちもあったから、私は何事もなかったかのように、お面をずらして声を作って電話に出た。



「もしもし?」

「もしもし」

 息の切れたショウの声だった。

 やばい、息が切れているということは、ショウは走っていたということだ。

 何のために走ったの?

 ユウに電話をかけてくるってことは、花火には間に合わないけれど、今から会うつもりなんだろうか?

 でも、私は下駄が壊れてしまったし、何よりメンタルが壊れてしまっている今ショウに会えるコンディションではない。

「息が凄く切れてるみたいだけれど、どうかしたの?」

 私は思わず聞いてしまった。

「え?」

 私のその問いに、ショウが驚いたような声をあげた。

「何? 私、何か変なこと言ったかな?」

 ショウは私の質問にすぐに答えない。

「――変な質問していい?」

 少しの間があった後、凄く真剣な声でショウがそう言ったのだ。

「え? 突然何?」




「今まで聞いたことなかったけれど、ユウちゃんって……高校どこ? どこに住んでるの?」

「本当に、どうしたの? ショウ君怖いよ……」

「大事な質問だから。答えて」

 そんなことを言われても、ユウは本当に実在する人物じゃない。

 ユウキの顔をベースに詐欺メイクをしてショウの好みの顔として生み出された偽物だ。

 だから、当然、ユウとして通っている学校もなければ、ユウとして住んでいる場所もない。



 どうしよう、今こんなことを質問されるって思わなかった。どうしよう……なんて答えたらいいの。

 答えなきゃいけないのに、学校名なんて、ショウがユウに会いに学校に来られたらすぐにばれてしまう……だから、答えられない。



「……ユウちゃんは覚えていないって言ってたけど。俺と初めて会った場所は、俺ん家の近所だった。あの辺は住宅街だし、コンビニやスーパーはあっても遊びに行くようなところなんてないけど」

 ショウと初めてユウの姿で会ったのは、リサ姉からメイクの免許皆伝をいただいてルンルンで帰る帰り道のことだった。

「あの日、ユウちゃんはなんであんなところにいたの?」


 私は家の近所で出会ったからこそヤバイと認識されない間にと逃げ出したのだから、忘れるはずもない。

 スマホを持つ手が震えてガチガチと歯がなる。

 どうしよう、どうしよう、どうしようってことだけが頭の中にぐるぐると回る。



「答えられない?」

 ショウの質問になんて答えればいいのかわからなくて押し黙ってしまう。


 

「ああぁぁあ」

 電話口でショウが大きな声で叫んで私は思わずビクッとしてしまった。

「今どこ? とりあえずそっちに行くから?」

 冗談じゃない、今会いに来られても、ショウに一度ユウキとしてみられた浴衣姿だ。

 何より鼻緒が壊れてしまっていて、どうやって家に帰ろうと思ってるくらいだから、家に帰って再び変身して、違和感のない時間にショウに会いに行くなど不可能だし。

 何よりかにより会えたとしても、今は絶対にショウと会いたくない。

 どんな顔をしていいかわからない。




「今は会えない」

 震える声でやっと答えた私の回答に対してはショウは無言だ。

 私はこれ以上言えることがないし、ショウも何も言わないものだから、長い沈黙となる。

 少し離れた神社の境内の声や音がざわざわと聞こえる。




「じゃぁ、場所は言わなくていい。絶対そっちにいくし、見つけるから。今の場所から絶対に一歩も動くなよ。

 ……ショウの口からはっきりと告げられた名前はユウではなくて、ユウキだった。

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