6 「やっぱり自分で考えるよ。」
「実は、明後日クラスメートの誕生会に招かれることになってね。」
「ふーん。で、なにが相談なの?」
「その相手に渡すプレゼントを明日買いに行くんだけど、なにがいいかなぁって思ってさ。」
僕がそう言うと、琴音は一瞬考えた後、こてりと首を傾げる。その表情からは、「なんで?」という声が聞こえてきそうだ。
「え?なんで私に聞くの?お兄ちゃんの知り合いなんでしょ?」
「そうなんだけどね。ほら、僕男じゃん?女の子になにを渡すべきかわかんなく――」
――ガタッ!!
僕の言葉を遮るように、琴音が大きな物音を立ててベッドの上から滑り落ちる。どこかに体をぶつけてそうだけど大丈夫なのかな?
「ちょ、ちょっとタイム。え?え?えぇ!?」
琴音は目を白黒させながら(実際にはさせてないけど、比喩表現ね)そう訳の分からないことを言う。話を聞いてもらう側の僕は、琴音のその反応に大人しく待つことにする。
「え、え、え!?えっ!?お、お兄ちゃんのクラスメートって、じょ、じょ、女子なの!?え?えっ!?」
「そうだけど?」
「はぁぁぁぁああああああ!!!?お兄ちゃんが女の子の誕生会に行くの!!?」
「そんなに驚く?」
いくらなんでもその驚き様はおかしい。僕だって高校生なんだから、別にそれくらいおかしくないと思うんだけど。まぁ、今まで女の子とそんなに話すことがなかったから当然だと思うけどね。
「驚くに決まってるじゃん!!だってあのお兄ちゃんだよ!?中学時代は『不可侵の領域』とか『結界士』とか呼ばれてて女子どころかほぼクラスメートを寄せ付けなかったあのお兄ちゃんが!?当時、一年生にまで噂が回ってたんだよ!?」
「ごめん、いろいろツッコミたいんだけど、まずは言わせて。なにその二つ名!?僕初耳なんだけど!?」
そんな風に呼ばれてたことも知らなかった。というか、ちゃんと話してるつもりだった。確かに、絵を描かなくなってから少し暗くなってた気もするけど、クラスメートを寄せ付けないなんて、そんなことしてない――はず。
あれ?でも中三の頃とかほぼほぼ喋ってないような気もするし――
「と、とにかく、そんなの誰付けたの!?」
「私も知らないよ。気が付いたら『琴音のお兄さん、イケメンだけど近寄れない雰囲気あるよね~』って言われてたし、たぶん二つ名付けたのお兄ちゃんのクラスメートとかだよ?」
「――なんかショック。」
そんなふうに思われていたなんて。僕、なにもしてないのに。というか、イケメンでもなんでもない僕が、なぜそんな有名人になったのかが謎。まぁ、琴音に聞いても意味ないから聞かないけど。
「まぁ、それはいいや。で、話を戻すよ?僕はなにをプレゼントにしたらいいと思う?」
「いや、私に聞かれても困る。その人がなにを好きなのか知らないし。どの程度仲いいのかも知らないし。というか、どういう関係で誕生会に行くことになったの?」
「その人は、中間試験以降僕が勉強を教えてた人で――」
「ああっ!!その人なの!?男かと思ってた!!えっ!!?ってことは女の子の家に行ったりしてたの!!?なんでそんなフラグ立ててるの!!?」
「いや、別にフラグ立ててないし。」
ただ勉強を教えてただけでフラグになるわけがない。というか、フラグなんて現実じゃ起きないから。あれ二次元の中の話だから。
「立ててるよ!!というか、え!?よくお兄ちゃん教えようと思ったよね!?」
「まぁ、いろいろあったんだよ。」
別に朝日さんとの取引の内容については琴音に教える必要はないし、説明も面倒。それより、プレゼントのほうが重要だしね。というか、まさかこんなに驚かれるとは想定外だった。てっきり、「え?そんな人いたんだ。ふーん」ぐらいのノリかと思ってたのに。
「そんなことはいいんだよ。それより、プレゼントどうしよう。」
「だから、私に聞かれても困る。お兄ちゃん、無駄に器用だしなにか作れば?まぁ、そんなに親しくないなら逆に気持ち悪いと思われるかもしれないけどさ。でも、たぶん大丈夫だと思うよ?」
「いや――手作りはちょっと。市販品でお願いします。」
「まぁ、お兄ちゃんならそうだよね。うーん――そもそも、私その人のこと知らないしなぁ。趣味とかないの?」
「絵を描くこと?」
というか、それしか思いつかない。家に行っても、趣味らしきものは絵の用具とかペンタブとかしかないし。というか基本的に、勉強か、絵とか漫画の話しかしないからなぁ。
「あ、なら、お兄ちゃんが絵を描いて渡せばいいんじゃない?ほらお兄ちゃん絵が上手いし、きっと喜ぶんじゃない?というか、お兄ちゃん勉強だけじゃなくて絵も教えてあげればいいんだよ!そうすれば――」
「琴音。」
思わず、自分でも驚くほど低い声が出てしまった。それに一瞬琴音はびくっと反応してから、「ご、ごめん」と謝ってくる。いや、琴音の気持ちもわかる。わかるのだけど、やっぱりだめだ。
「僕は、もう絵を描かない。」
きっぱり、そう言う。
せっかく考えてくれた琴音には悪いけど、やっぱりそれはできない。もう、楽しくないんだ。辛く思ってしまうだけなんだ。だったら、しないほうが楽に過ごせる。並ぼうとするから悪い。一人のファンとしているのが、きっと心地いい。
「まぁ、うん。せっかく提案してくれたのにごめんね。やっぱり自分で考えるよ。」
僕はそう言うと琴音の部屋から出て、自室に戻った。
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