第113話 解放
目を開ければ世界は黒と白だけで色付けられていた。
目の前には風がただ立っている。
「久しゅうことじゃないか。コタ。何年ぶりかえ?」
「そうだな。やっと、だ。」
「あぁ、やっと、だね。今すぐにでも…。」
影で刃を作り出す。
それを突き付けて思いっきり笑んだ。
「あんたを殺したい。」
影が貫けたのは空気だけ。
素早く避けたコタは顔をしかめた。
何千年前からのこの憎しみを受け取って欲しい。
許さない。
思い出したんだ。
だから、殺させろ。
「待て。何がそんなに気に食わない。戻れたのにか。戻れたのに、」
「戻れたからだ。気に食わないよ。ずっと、あんたを殺したかったんだ。何千年も縛られてたんだ。誰があんたを食わずに笑うって?」
この体を縛り付けた人間はもう生きちゃいない。
けど、そうさせた神なら目の前にいるんだ。
だったら人間の分まで払ってもらわなければ。
遮って言った言葉に悲しそうな表情を浮かべた。
「ずっと、ここに居たんだ。居たから、苦しかったんだ。ねぇ、返してよ。」
心臓があるはずの辺りが酷く痛む。
押さえたまま、コタへ足を進ませた。
「返してよ。返してよ。返してよ!」
胸ぐらをつかんで鼻先がくっつくんじゃないかってほどぐいっと顔を近付けた。
首に出来た鎖の痕が、赤黒く痣になっている。
返して欲しい。
時間も、心臓も、あの頃の風景も。
どうしてくれる?
この空虚な空洞を何で埋めてくれる?
コタは何も答えなかった。
忘れてしまった。
もう、思い出すことは出来ない。
影を飲んでも呑まれるな、ということだ。
曖昧な残った感情を闇雲に叩き付けて、答えを教えろと乞う。
「
手から力が抜けてすがるように声を沈ませる。
無理矢理解いた封印は、
未だに動けやしない。
だから本人を殺せばいい。
そう思ってた十数秒前が、遠い。
殺したい…殺したいのに…。
「今日、祭りがある。」
ポツリと呟いたコタに、顔を上げる。
「祭り…?」
「夜になれば祭りが始まる。」
「…あ…
「一瞬だ。一杯しかない。」
その一杯が。
神酒のその一杯が、封印をも溶かしてくれる。
神を呼ぶ祭り…最後はいつだったか。
久しぶりに見ることになるのか。
バタバタと足音がした。
そして、ビャクが顔を見せた。
「
「あんた…。」
「それ…その格好…。」
「その目、見たことあるって顔だね。」
スゥッと立ち上がってビャクの目の前へと歩く。
ビャクは目を見開いて見つめ返してくる。
「小さい頃、1回だけ見た。ここに、縛られてて…お前、だったのか?」
「っと、いうかなんでこっちの姿でこちとらだと気付けるんだか…。」
似てる…か?
「俺、俺が札を取ってみたら凄い綺麗で、話だったら千年以上前の物だって言ってて…。」
「もの扱いかい…。まぁ、身体だけあったんだしそりゃものでも同じか。」
「凄い綺麗で!」
「いいよ!聞こえてらぁ!そこ大事じゃないし!」
「褒めてんだからもっと喜んでくれよ!」
「なんでよ。っつぅかあんた札取ったのか!!」
「だって気になるじゃねぇか!!」
「やけに封印が思ったよりか弱いなって思ったら!あんたか!」
「悪いかよ!」
「悪いだろ!普通に触るなとか言われなかったわけ!?その前に地下に行くなって言われるでしょ!」
「言われたけど!俺の好奇心舐めんな!」
「お利口さんにしてろよ!で、その札は?」
「消えた。」
「あー…そうね。そりゃ、消えるわな。」
ちらとコタを見れば頷きながら頭を掻いた。
どうやら昔の自分のその雑さを思い出したくらいだろう。
下手をすれば封印が要らぬところで解けていたかもしれないというのに、また適当な神だな。
「あ、そうだ。祭り!忍のお前に見せたくて!」
「え、あー、別にいいよ。神呼祭でしょ?」
「なんで知ってんの!?」
「あんたこの風景見て、しかも忍相手になんて反応してくれてんの。神だわ。お呼ばれされる神だわ。こちとら。」
「はぁあああ!?」
「それに忍だったらんなこた知ってらぁ。」
「え、神?夜影が?」
「見てわからんか。あー、嫌だわぁ最近の王様は。無礼であるぞ、神の前に。」
「え、なにその、忍の真逆を行く発言。俺すっごい裏切られた感。」
「真逆だわな。ってか畏まられるの嫌だから無礼のままでいいや。」
どうせビャクはどっかの村人のようにはしないだろうし。
王様だしね。
神だろうがそういう態度していいのはこちとら相手の時だけだけどね。
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