第75話 回復

 夢か…。

 随分ずいぶんと懐かしい記憶じゃない。

 目が覚めて、天井をじっと見つめる。

 違和感を覚えて横を見ると、才造サイゾウの背中がそこにあった。

 声はやはり出ない。

 床の上で寝た記憶はないし、ここは才造の隠し部屋以外それらしい場所はない。

 動かない右手の代わりに、左手で床を軽くノックした。

 それに気付いてその耳を動かした後、振り向く。

「悪いな。お前の薬を抜き取ったのはワシだ。だが…まさか材料をほぼそのまま飲み込むとは思わなかった。」

 手元のそれはきっと薬だ。

 おのれの薬は多分別の場所に保管しているはず。

「お前の性格上隠すことはわかっていたんでな。案の定、あの短時間で化粧で隠し術を使い、見事に騙しやがった。お前が寝てから二時間後、様子を一応見に行ったが痙攣してた。何か言うことはあるか?」

 言うことはあっても喋れないので、床に文字を書く。

『すみませんでした』

「お前が異常なタフでなけりゃ死んでたからな。お前の持ってた液体で化粧は落とさせて貰った。それと、寝てる間に治療も済ませた。」

『どうりできてたもんがかわってるわけだ』

「……脱がせたことは謝る。治療以外の目的では体は触ってはいない。」

『べつにうたがってないよ』

「そうか、ならいい。」

 妖力が空になったせいで、異常な空腹感に襲われる。

 直ぐにでも何か口にしたいし、早く何かから気を吸い取りたい。

『さいぞうからきをすいとっていい』

「吸い取った場合何か影響があるのか?」

『さいあくしぬ』

「それを知って頷く奴が居ると思うか?」

『じゃぁいきたままのしんでもいいやつもってきて』

「モンスターでいいだろ?」

『げんきなやつでおねがいね』

 それから少し経って才造が戻ってきた。

 本当にモンスターを持ってきた。

 結構元気そうだし、回復出来ればそれでいい。

 手をぶっ刺して影を入れ込む。

 体内に流れ込むモンスターの気は直ぐに己を満たしてくれた。

 モンスターは動かなくなる。

 手についた血を舐めて、起き上がる。

「才造ありがとねー。動けるまでには回復した。」

「どうなってやがんだお前の体は。無理してるわけじゃないだろうな?」

「いやいや!これは違うって!もっと吸い取れば色々治るんだけどね。」

「妖力だけじゃないのか。」

「命一つ吸収すれば、ね。気だけを吸収すれば妖力だけは回復するけど。」

 だからって折れた骨が治るまでじゃないし、傷が全て塞がるわけでもない。

 気休め程度の回復にしかなっていないから、今戦闘は難しい。

 ま、様子見しますかね

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