雨と河童ときゅうり

桜牙

第1話

 今日は低気圧の影響で全国的に雨が降っていた。

 この辺りももちろん例に違わず一日中雨が降る予報が出ていた。

 こんなに雨量が多い日は河童の目撃情報が多く出ている。

 川の流れも速くなるし水も汚れるからだろうか、河童も川にいられず陸に上がってくるからだと考えられている。

 そんな話を知ってか知らずか「河童を探しに行こうぜ」とクラスメイトの1人が言った。

 注目を浴び周りがざわめき出した。

 結局、参加したのは言い出しっぺのたけしと僕だけになった。


 放課後。

 ランドセルを持ったまま合羽を着て傘を持ち長靴を履いて雨の中を川に向かって歩いて行った。

 あたりはまだ早い時間帯にも関わらず分厚い雲に覆われて夜のように真っ暗だった。

 川のそばまで来てみると何か動く人影のようなものが見えた。

 河童かなと思い近くにいくと巡回中のお巡りさんだった。

 こちらの気配に気が付いたのか懐中電灯で照らされた。

「こら、こんなところで危ないぞ。早くおうちに帰るんだ」と雨音で聞き取れなかったが多分そんな風なことを言われたんだと声の大きさで察した。

 僕の中では河童の正体はこうやって雨の日に川の周りを巡回してるお巡りさんを河童と勘違いしたんじゃないかなと考えていた。

 お巡りさんも行ってしまったし僕たちも諦めて帰るかそう思っていたら急に強い風が吹いて来た。風で傘が飛ばされそうになりバランスを崩した。

 あっ、と思ったがその時にはもう遅かった。

 目の前は濁った水でよく見えなかったが何かが近づいてくるのが分かった。

 その何者かに手を掴まれたと感じたがそこからがよく覚えていない。

 気がつくと陸の上で横たわっていてたけしが覆いかぶさるような体制になり悲痛な表情で僕の名前を叫んでいた。

 僕が気がついたのに気がつくと一瞬安堵の表情を浮かべたが真剣な顔になって言った。

「バカな提案に巻き込んでごめん、まさかこんなことになると思わなかった」

「バカな提案なもんかだって本当に河童はいたんだからそれに一緒に行きたいと言い出したのは僕だしね」

「お前が無事でよかったよ。河童には感謝しないとな」

「そうだね」

「もう大丈夫か?歩けそうか?」

「大丈夫だよ。少し気分は悪いけど歩くくらいなら問題ない」

「じゃあ、帰るか」

「うん」

 たけしの手を借り起こしてもらい、そのまま支えられて家まで送られた。

 家に帰るとたけしは僕のお母さんに何度も何度も謝っていた。

 その途中から記憶がなくどうやら疲れて眠っていたみたいだ。


 翌朝。

 今日もまだ雨が続いていて雨に打たれすぎたせいか僕は体調を崩して学校を休んだ。


 数日後。

 体調が戻ったのを知ってたかのように数日間続いた雨はやみ空に太陽が祝福をしてくれてるようだった。

 僕は早めに家を出て河童にあったあの川に向かった。

 そこに河童はいるはずはなかった。

 それでもお礼が言いたくてここに来た。

 川に向かってありがとうとお礼を言い家から持ってきたきゅうりを置いた。

 川から離れた時川の方から音がした。

 気になり後ろを振り向いたがそこにはなにもなく先ほど置いたキュウリも無くなっていた。


 ああ、やっぱりいるんだね。

 ありがとうと心の中でつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨と河童ときゅうり 桜牙 @red_baster

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ