第43話 怒りの鉄拳
「自慢ではないが、上等なものだよ」
マグナス卿は琥珀色の液体が注がれたウイスキーグラスをテーブルの上に置いた。
もしかして試されてる?
俺の反応を観察しているのか?
とかなんとか思いながらも、喉が渇いていたので、俺は直ぐにグラスを手にした。
毒を食らわば皿まで。
まずは匂いを嗅いでみる。
まるで暗い森の熟れた土のよう。深みのある芳醇な薫りが静かに鼻腔を焦がした。
これは上物だ。
俺はグイと一口飲んだ。
「美味いな・・・。スコッチですか?」
「気に入ってくれて私も嬉しいよ」
そういって卿は向かいのソファーに座り、自分のウイスキーを飲んだ。
「さて、最近いろいろ大変だったみたいだね」
俺は自分に言い聞かせた。
無だ、無になれ。今ここで怒りをぶちまけてもしょうがい。
全部あんたの所為だろ、あんたが発端だろ、ここまできて他人事かよ、と溶岩のように湧き上がってくる言動を俺は必死に抑え、無言で通した。
偉いぞ、俺様。
伊達に四百年生きてねーよ。
「えーと、河童だったかな?」
マグナス卿がしれっといった。
いろんな前提とか配慮とか全無視かい!
ハイ、切れました。俺の頭のどこかで、神経だか血管だかがブチっと切れる音がした気がした。
俺は勢い良くソファーから立ち上がって、卿の側に歩み寄り、きっちりと締められた洒落たネクタイを掴んで無理矢理引っ張り上げた。
「今から俺はあんたを殴らせてもらう」
一言添えてから、マグナス卿の顔面に拳をくれてやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます