第39話 雨夜の君
春日の後ろには美しい青年が立っていた。彼は春日の胸を背後から、刀で刺し貫いていた。
「・・・あんたは」
見惚れてしまいそうな程の端正な顔立ち。髪を後ろで一つに結い上げ、月光に照らされた肌はうっすらと銀色に輝いているようだ。しかしその瞼は、閉じられたままだ。
「雨夜の君」
警視庁特務課 客人対応係の長、雨夜の君。或いは雨夜の皇子。
てことはこの刃はあの『あざ丸』か。
「ちょ、ちょ、ちょっとこれなんすか⁉ おれの胸に刀刺さってるんですけど⁉ どうするんすかこれ‼」
春日は動きたくても動けない様子で、慌てふためいている。
「冷静になれましたか? でしたらこれを抜いてさしあげましょう」
「は、え? おれはいつだって冷静沈着ですよ⁉ だから早くこれを抜いてください! ていうかおれの体大丈夫なんすか⁉」
「では、動かないで」
すると雨夜の君はスッと何の抵抗もなさそうに刀を引き抜いた。
「あれ、なんともない。傷一つないっす! 師匠、これどういうことすか⁉」
「それはなぁ・・・」
「我が愛刀『あざ丸』は、あなたの異能だけを絶つことも出来る」
なんでぇ、御自ら解説してくれるとは、随分とお喋りだな今夜は。
雨夜の君の佩く刀は痣丸、癬丸。異能を切る刀。噂じゃ天から落ちてきた鉄で鍛えたとか。しかし代わりに使用者の視力を奪う。俺だったら絶対に使いたくない刀だな。まぁ雨夜の君は生まれながらに盲目だと聞くが。
「しかし・・・逃げ足もお早い方ですね」
雨夜の君が刀を鞘に収めながら呟いた。
「あ、クルップの奴がいねぇ!」
くっそ、警察が来たからって、どさくさに紛れて逃げやがったな、あいつ。
「あー本当だ! どうしてくれるんすか⁉ あんたら!」
雨夜の君に憤る春日。怖いもの知らずかよ、おまえは。
「おめーがギャーギャー騒いだからだろ」
おれは春日の頭を引っ叩いた。
「えーおれのせいすか?」
「コラっ、テメェら、さっきから頭が高いっちゃ! 雨夜様の御前やぞ」
雨夜の君の背後から、警官の制服を着た二人の男が現れた。
客人対応係の面々だ。
「雨夜様、既に気配はありません」
背の高い厳つい男が雨夜の君に耳打ちした。
「そうですね。逃げ足の速い男だ」
雨夜の君が落胆の溜息をついた。
あーあ、これまた面倒なことになったな。昼までに帰れるかな。
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