第24話

 「今度こそ山だな……」


 エンデレはホッとして、山の頂上を踏みしめた。


 エンデレは剣を持って、アリーゼの姿を探した。


 「アリーゼさん? どこですか?」


 アリーゼの返事の代わりに、ドラゴンの雄叫びが返ってきた。とてつもない音量だった。


 「……え?」


 再び雄叫びが鳴り響いた。


 激しい振動音も併せて聞こえてくる。


 「ちょ、もしかして……!」


 エンデレは慌ててドラゴンのいる方向へ走り出した。


 エンデレの案の定、アリーゼとドラゴンが戦闘を繰り広げていた。


 「オラァ!」


 「ギャオオオオオオオオオ!!」


 ドラゴンが火を噴き、それをアリーゼが回避した。


 エンデレは遠巻きにこれを眺めて、どうしようか途方に暮れた。


 アリーゼがエンデレの姿を見つけた。


 「おお! エンデレ!」


 「アリーゼさん! 何ですかこれ! どうなってるんですか!」


 「いやあ! 見つかっちゃった!」


 「ちょっと! 剣持ってきたんですけど!」


 「ああそうだ! お前! またお前に会ったぞ私! 神出鬼没だな!」


 「今それいいから!」


 「ギャオオオオオオオオオ!!」


 ドラゴンの周囲に魔法陣が無数に浮かび上がり、それぞれの中心から光が放たれた。


 「うおっ、あぶな!」


 アリーゼは無数の光線を何とかかわした。


 光線は地面に突き刺さり、完全な円形の穴をそこに刻んでいた。アリーゼのいた地面がハチの巣のようになっている。


 「というか剣でもどうにもなりませんよ! 一旦退きましょう! 撤退です!」


 「エンデレ! お前に巡り合えたことに、私は感謝しよう!」


 「は!?」


 「ギャオオオオオオオオオ!!」


 「私があの時感じた感情! 今まで感じてきた感情! それをずっと消化してきたんだ! そして理解した!」


 「ギャオオオオオオオオオ!!」


 「私はずっと一人だった! いつしかそれにも慣れてしまっていた!」


 「ギャオオオオオオオオオ!!」


 「出くわす奴らは私の神経を逆撫でして! 奴らを殺してたら! 私は一人になった! 誰も私に寄り付かなくなった! だけど! ときどき、私は両親の墓を思い出していたんだ!」


 「ギャオオオオオオオオオ!!」


 「私はもう! 一人じゃない! わた」


 「ギャオオオオオオオオオ!!」


 「この気持ち! 私は確信した! 私は」


 「ギャオオオオオオオオオ!!」


 「うるせえ! 死ねァ!」


 「ギャオン!?」


 「……」


 ドラゴンが思いっきり吹っ飛んだ。そして動かなくなった。


 「やかましいんだよテメェ! 今お前のことなんざどうでもいいんだよ!」


 「……」


 エンデレは剣を持って立ち竦んでいた。




 「よしよし、これぞ私の愛剣だ」


 アリーゼが剣の柄に熱烈な口づけをしていた。


 「……それ持ってきた意味ありませんでしたね」


 「いやいや、おかげで自分の気持ちを消化できた。それでドラゴンにも勝てたんだぞ!」


 「少し引きましたよ」


 「ふ。改めて礼を言うよ。数重なるお前との出会いにな」


 「ああ、そうですか……というかそこら辺の時系列どうなってるんですかね?」


 「複数ある感じだな。今は何だか重なってる感じがするー。不思議な感覚だ」


 「……俺が消えたらちゃんと正常に戻るんだろうな……?」


 「ん? 何か言ったか?」


 「……いえ、別に」




 「まだ息はあるな」


 倒れたドラゴンを観察して、アリーゼは呟いた。


 ドラゴンはだらしなく四肢を地面に投げ出していた。腹を見ると、微かに動いているように見える。


 エンデレは、少し眉をひそめながら、ドラゴンの鼻の先に手を掲げた。微かに温かい。


 「……ほっといたら死ぬんじゃないんですか?」


 「いや。ドラゴンの生命力は凄いからな。この状態なら三日くらいで元に戻るんじゃないか?」


 「へー……凄いな、それで……」


 エンデレはドラゴンの頬のあたりをポンポンと叩いた。


 「どうするんですか? もしかして殺しちゃうんですか?」


 「……」


 アリーゼはしばらくドラゴンを見つめ、首を横に振った。


 「……いや、殺さない」


 「どうしてです?」


 「……殺すの目的じゃないし……それに、やっぱり違ったよ」


 「違う?」


 アリーゼはフッと空を見上げた。


 「そこまでこいつに関心なかったわ」


 「……ドラゴン可哀想」


 「いろいろ溜めこんでたのかな……イライラしてたようだ」


 「ストレス解消じゃないですか」


 「ふう。私としたことがな。自分の気持ちを誤魔化していたようだ。ドラゴンさんごめんなさいって奴だな。まあこいつ結構な害獣だから殺しても誰かには感謝されるだろうが……」


 アリーゼはとても晴れやかな顔をした。


 「次はちゃんと殺したい奴を殺すよ」


 「……」


 「……ところで、縁があったらってことなんだけど?」


 「え?」


 アリーゼはエンデレを真剣に見詰めた。


 「子供の頃の話。でも、お前は別の用があるんだな?」


 「あ……」


 エンデレは、それを聞いてばつが悪く感じるのを意外に感じた。


 「その……」


 「いや。大丈夫だ。分かっている」


 「すみません……」


 「しょうがない。でも、またいつかはな。エンデレ」


 アリーゼはニコニコと笑って、エンデレに言った。


 エンデレは戸惑っている。


 「お前とはなんだかんだまた会えるさ。その時は、よろしく頼むぞ」


 エンデレは応えに迷って、アリーゼの笑顔を見て、フッと表情を綻ばせた。


 「……アリーゼさんはある意味で気持ちのいい人ですね」


 「エンデレは少し背筋をしゃんとした方がいいな」


 「ははは……」


 二人は倒れ伏したドラゴンの前で握手を交わした。

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