第7話 『真』朧気な記憶
私は慌てて彼女のあとを追った。
玄関には見慣れた鞄がおいてあった。
それを拾い上げ一応中身を確認すると特に無くなっているものはなかった。
「何が入っている?」
彼女はそう言った。
やはり彼女は変わっている、普通他人の持ち物をわざわざ聞くようなことはしない。
尤も私には隠すような物もなかったため素直に答えた。
「財布と懐中時計、それから本」
「どんな本?」
「アーグリー・コアの『真実の眼』」
「アーグリー?」
「そう、アーグリー・コア、ほとんど書店には置いてないと思う、かなりバカげた本だから」
彼の随筆を見つけたのは偶然だった。
友人のリチャードに引っ越すのにあたって家にある本を処分したいから手伝ってくれと頼まれ、本をまとめているときになんとなく目に入ったのだ。
特に有名な本というわけではなかったのだが手伝っている間ずっと気になってしまい、彼に言ったところ
「気に入ったのがあれば持っていっていい、元々処分する予定のものだしな。それにしてもアーグリー・コア?そんな作家聞いたことないな。そんな本も買った覚えもない。どっから紛れ込んだんだ?」
と少しの変わった返事がきた。
私はこの本をすでに数十回と読んだのだが、突拍子が無く、ふざけていて、バカげている本だという大まかな感想は変わらなかった。
しかしながら終盤に出てくる
『現実は夢であり、夢が現実だという可能性を考慮しつつ、確固たる意志を元に己の糧にすればよろしい』
という一節だけは何故か私を惹き付け離さなかった。
それに同じような言葉を何処かで聞いたような気がした。
もしかしたらどこかで同じようなフレーズを聞くかもしれないと思い、出かけるときはいつも持ち歩くようにしている。
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