明日の私

@Mocha-Mocha

第1話

「ねぇ!名前なんて言うの?」


「おっけー!よろしくね!」


「"アビリティ”、何?」




「3言目にはアビリティ・・・世も末だね。」


初めて入った教室のどこかから聞こえてきた声に、瑠衣は溜息まじりに言った。


アビリティとは、いわゆる超能力だ。

日本、否


世界中で話題のそれは一人1つ持っている常識となっていた。

最初は世界のどこかで見つかったアビリティ持ちの"珍しい人間"は今や500人に499人の"一般人"と化した。


500人に1人の"珍しい"瑠衣は自分の人生に疲れていた。


「高校生になったらきっと何か変わるから!」


そう母に諭され、半ば強引に受けさせられた高校受験に見事に受かり、今日は入学式だ。


入学式ともなれば、初対面の自己紹介で聞く言葉はやっぱりアビリティ。


「…はぁ。」


「あ!そこの人!」


本日28回目の溜息をカウントしながら顔を伏せようとした時に、その声は聞こえた。

…そこの人って。


「あなたにはまだ名前聞いてなかったよね!…名前、何さん?」


「…あ、えっと…佐伯…です。」

急に名前をきかれたせいで一瞬名前が出てこなかった。


「ふーん!佐伯…何ちゃん?」


「えっ、名前も…?」

驚いて顔を上げると、スタイルの良い白い綺麗な女の子が立っていた。


…可愛い。


瑠衣は同性ながらも惚れそうだった。


「当たり前でしょ!…もしかして、名前、言えない感じの…極秘的な…」


…バカなのかな。

「…瑠衣。佐伯瑠衣…です。」



「そっか!よろしく瑠衣ちゃん!…瑠衣ちゃんのアビリティはなに?」




…最悪だ。


わかっていた。この世界にいる限りアビリティは当たり前なのだ。


…でも、当たり前じゃない瑠衣にはこの質問は地獄だった。


「あ…実は…ア、アビリティ、無いの」


瑠衣は一瞬、時が止まったように錯覚した。

実際には、周りの動きが止まった。


この時間も嫌い。普通のことが無いんだから。

怖い。この時間が、この後が、怖い。


「え、そうなんだ。…なんか、ごめんね。

でも、気にしないで!」


少し安心した。

この人の目は、蔑むような目では無かった。



「あ、私はね」

「なぁ、今のマジ?」


自分の事を話そうとした彼女の前に、

割り込んできた複数の人間。


「お前、アビリティねえの?」

「そんな奴初めて見た!」

「生きるの大変そう…」


この目。言葉。

やっぱり、苦手だった。


「やめなよ!初対面なのに失礼だよ!ねえ!」

さっきまで喋っていた彼女は、


瑠衣を見ようとする人に押されて見えなくなってしまった。


「なぁ、やっぱり不便?」

「どうやって生活してんの?」

「顔は普通なのにね!」


遠回しに、

「何故生きているの?」

「異常者」


そう言われてる気がした。

怖い。この目が、声が。

息が詰まりそうだった。


「なんで…」

私ばっかり。そんな言葉が嗚咽となって消えた。


「あ、泣いた?ごめんごめん」

「悪気ないんだって!こいつこういう奴だからさぁ!」


知らない。あなたがどんな人間なのか。

知りたくない。


「あんたたちなんかに…私の気持ちなんか分かんない!!!!」


咄嗟に叫んで、走って教室を出た。


まだちゃんと覚えてもいない廊下を無我夢中に走った。


さっきまで話していた女の子の私を呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど、

そんなことを気にしていられなかった。


なんで私ばっかりこんな目にあうの?

私が普通じゃないから?


普通じゃないのはどっちなの?


もう何も分からなかった。


辞めたい。高校なんて。

いや、高校だけじゃない。

この先もこんな目に遭うんだ。



なんで私、アビリティ無いの?



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